文字サイズ
自治体の皆さまへ

ふるさとの誇り194 ○(まる)博レポート

6/21

山梨県南アルプス市

■明治29年大水害の記録
関東大震災から100年の今

【タイムライン】
《9月》
・6日 降水量4.8mm
・7日 17.7mm
・8日 102.4mm
石積出三番・五番堤決壊。前御勅使川に流れ込み、沿岸地域に被害。将棋頭決壊。16時過ぎ坪川、狐川で氾濫。滝沢川十日市場地内と東南湖地内で決壊。市之瀬川東落合地内で東側へ決壊。坪川字土尻で決壊。釜無川和泉地内へ逆流

・9日 40.5mm 浅原橋落橋
・10日 56.7mm
・11日 141.7mm
23時頃玉幡村分(十二番)150間(※3)決壊。常永村より下流域浸水。滝沢川江原地内で決壊

・12日 30.4mm
10時頃龍王村二番改修堤(信玄堤)崩壊。玉幡村の「信玄堤」と呼ばれていた旧堤防も決壊

・13日 五明村と南湖村との間で滝沢川の排水騒動

詳しくは「ふるさとメール」をご覧ください
(※QRコードは本紙P.10をご確認ください)

1923年に起こった関東大震災から100年。地震だけでなく世界各地で気候変動による干ばつ、山火事、洪水が多発しています。これからの時代を生きる道しるべとして、明治29年(1896)9月に起きた甲府盆地の大水害の記録(※1)をひもといていきます。

明治29年9月上旬、山梨県内は猛烈な雨に襲われ、6〜12日の総雨量は394.2mmに達し、各地の堤防が決壊、県内での死者数33人、流失破損約500戸、浸水4,729戸、堤防決壊329箇所という大災害となりました。その発端となったのは御勅使川で、8日に御勅使川扇状地の治水の要、有野の石積出三番・五番堤が決壊し、濁流が前御勅使川に流れ込み多くの堤防が決壊、百々や上八田、六科、野牛島など沿岸の地域が押し流されました。中でも旧御影村の上高砂は前御勅使川だけでなく御勅使川と釜無川の氾濫により、集落や田畑が流され、多大な被害を受けました。増水した前御勅使川は釜無川と合流して11日玉幡改修堤、12日には龍王二番堤(信玄堤)など対岸の堤防を破り、龍王村や玉幡村など甲府盆地中央部に立地する広範囲の村々に大きな被害をもたらしました。この他釜無川右岸地域や大和川、滝沢川、荒川、坪川、秋山川、富士川などの流域でも洪水が発生しました。

当時の水防の主体は地域の人々で、豪雨の中、数百本の樹木を伐採し、人力で運び綱で固定して破堤しそうな箇所へ流したり、大量の土俵を作っては堤防を補強し、決壊を防ごうとしました。石積出の水防には千六百人もの人々が参加したと新聞で伝えられています。記録には書かれていませんが、数日間に及ぶ水防活動では大量の食料も必要となるため、女性を中心とした炊き出しや必要な物資の搬入も行われていたのでしょう。人々の団結によって守られた堤防がある一方、自然の脅威によって多くの堤防が決壊し、住まいや生業を奪われた地域もありました。

災害発生時には利害が対立する村々の争いも先鋭化しました。各村が自分たちの地域・暮らしを守るため、右岸と左岸、上流と下流の村々とで争いが起きたのです。例えば南から逆流してきた滝沢川の排水が問題となり、どこの堤防を壊すかで五明村九百人、南湖村六百人、増穂村二百人が水防道具を持ってにらみ合い、一触即発の状況となったことが新聞で伝えられています。

水害後には、地域間の対立を超えて各地の復旧作業が行われました。とりわけ、この洪水によって前御勅使川の封鎖が決定し、明治31年徳島堰から六科将棋頭まで石縦堤と呼ばれる堤防が築かれ、その歴史に幕が降ろされました。

明治29年9月の水害の記録は、御勅使川の洪水が釜無川を押し出し甲府盆地中央地域におよぶ洪水へとつながっていった現象、つまり諸河川の上流と下流域が治水の上で深く関係していることを示しています。現在最新の治水対策では、上流域から下流域まで河川のあらゆる関係者が協働し、流域全体で治水を行う「流域治水」が提唱されています。現代の水防は地域住民が直接携わる機会は少なくなっていますが、127年前の記録は、洪水が起こる不測の事態を想定し、水害の知識を学び、避難ルートや場所を確認しておく事前の備え(※4)と地区や市町村を超えた協力体制の重要性を私たちに伝えてくれています。

※1 山梨県史や各町村誌のほか、山梨日日新聞、甲府新聞の記事を基にタイムライン・水害図を作成しました。
※2 背景写真:明治29年9月水害後の前御勅使川左岸、野牛島の堤防の復旧作業が写されている。堤防前には水制の牛が置かれている。
※3 間…約1.82m。150間…272.7m
※4 南アルプス市洪水ハザードマップをご確認ください

文/図 文化財課

※詳細は本紙P.10~11をご覧ください。

<この記事についてアンケートにご協力ください。>

〒107-0052 東京都港区赤坂2丁目9番11号 オリックス赤坂2丁目ビル

市区町村の広報紙をネットやスマホで マイ広報紙

MENU