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ふるさとの誇り211 ○(まる)博レポート

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山梨県南アルプス市

■仏涅槃図(ぶつねはんず)の世界~長盛院(ちょうせいいん)の絹本著色仏涅槃図(けんぽんちょしょくぶつねはんず)~
旧暦2月15日。この日は仏教を開かれたお釈迦(しゃか)さまが亡くなられたと伝わる日です。この日、各地の寺院では「涅槃会(ねはんえ)」と呼ばれる法要が営まれ、仏涅槃図が掲げられます。涅槃図には、沙羅双樹(さらそうじゅ)の下で永遠の安らぎに至る(涅槃に入る)お釈迦さまと、それを悼(いた)み、見送る菩薩や神々、弟子、動物たちの姿が描かれています。今回は、徳永地区の長盛院が所蔵する仏涅槃図(※1)を通して、この仏画が伝える物語をひもといてみましょう。
お釈迦さまが涅槃に入られたのは、満月の夜、熙連河(きれんが)と呼ばれる川のほとりの沙羅双樹の下であったと伝えられています。この場面は涅槃図にも描かれ、満月、熙連河、そして沙羅双樹が印象的に表現されています。特に沙羅双樹は、黄色く枯れたものから緑豊かな状況まで描かれ、その姿が生命の終わりと教えの永遠を象徴しているといわれます。
お釈迦さまは頭を北に、体を西に向けて横たわっています。その身を包む袈裟(けさ)には金で繊細な模様が施され、光り輝く姿が表現されています。周囲では、地蔵菩薩や観音菩薩が祈りを捧げ、守護神や弟子たちが深い悲しみに沈んでいます。守護神の中でひときわ目を引くのは、赤い肌に3つの顔を持つ阿修羅(あしゅら)でしょう。両手には太陽と月を表す紅白の玉を携え、その形相には威厳とともに悲しげな表情も見て取れます。多くの弟子たちの中で、お釈迦さまの説法を最も多く聞いたとされる阿難(あなん)は、宝床(ほうしょう)の前で気を失い倒れた姿が描かれています。そして、画面前面には象や牛、馬、鹿、カラス、スズメ、さらには蟹や蝶、霊獣の鳳凰や獅子までが描かれ、まさに「生きとし生けるもの」すべてが、お釈迦さまの最後の瞬間を悲しんでいる様子が伝わってくるようです。
この涅槃図は、署名から元禄(げんろく)13年(1700年)、第10世機翁和尚の代に檀家から寄進されたもので、京都の絵師・中西氏によって絹地に描かれたことがわかっています。鮮やかな色彩で、人々や動物の表情はもちろん、衣服の細かな模様や毛並みの一本一本までていねいに描かれています。涙を流す者、深くうなだれる者、ただ静かに見守る者。一人ひとりの感情が、筆致の中に生き生きと映し出されています。この涅槃図は、325年の時を超え、元禄時代の緻密で巧みな絵画の技法と、地域の人々の深い信仰を現代に伝えています。
文/写真/イラスト 文化財課

※1.市内では「長盛院の絹本著色仏涅槃図」、「隆昌院釈迦涅槃図」、法善寺の「絹本着色釈迦涅槃図」が市の有形文化財に指定されています。長盛院では現在、仏涅槃図の一般公開はしていません。その詳細は文化財Mなびをご覧ください。

※詳細は本紙をご覧ください

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