津山の人・物・技術など、明日誰かに自慢したくなる津山のいいところを紹介します
■第51回毎日農業記録賞一般部門最優秀賞
・末澤 未央さん(宮部上)
結婚後、北海道から津山へUターン。平成20年から和牛繁殖を始め、現在約40頭を飼育する。49歳。令和5年11月、毎日新聞社主催の毎日農業記録賞で一般部門最優秀賞を受賞。受賞した作文「本当のいただきます」に込められた「農」や「食」への思いなどを聞きました。
※末澤さんの受賞作品は、4月中に毎日新聞社のホームページで公開予定です。
◇牛飼いになったきっかけ
祖父が牛を飼っていたので、大学進学で家を出るまでは、身近に牛のいる生活を送っていました。大学卒業後は大阪の旅行会社に就職。その後、転職先の北海道で夫と出会って結婚し、津山へ帰ってきました。
夫の再就職先が、牧場に餌を運ぶ運送会社でした。配達先で農家の皆さんと仲良くなった夫は、牛に興味を持ち、思い立って子牛を買ってきました。わたしも面白そうだと思い、牛に馴染みもあったので、一緒に牛飼いを始めました。
初めは小さな子牛1頭を、大事に可愛がりながら育てていました。1年が経つころ、肝臓に疾患が見つかり、母牛になる前に、と畜場へ送ることになりました。その時はひどく落ち込み、挫折しかけましたが、先輩農家の助けや後押しもあり、和牛繁殖農家を続けていくことを決めました。
◇「いただきます」の意味
岡山の牛肉文化の歴史を調べていた時、新見市の「竹の谷蔓(つる)牛」を知りました。蔓牛とは、特に優れた和牛の系統で、竹の谷蔓牛は日本最古の蔓牛とされています。この牛をどうしても育ててみたくなり、新見の農家を何度も訪れ、竹の谷蔓牛を2頭譲り受けることができました。そのうちの1頭が、後ろ足を脱臼してしまい、母牛にする予定を変更し、精肉にすることになりました。飼っていた牛が肉の姿になって帰ってきたのを初めて目の当たりにし、楽しく元気に「いただきます」とは言えませんでした。食卓に並ぶために命を落とした生き物に、鎮魂の祈りを捧げ感謝していただくこと。これが「本当のいただきます」なんだと感じました。
◇最後まで見守っていきたい
繁殖農家は、子牛を産ませて9カ月育て、市場へ連れて行くまでが仕事で、その後は肥育農家が育てます。竹の谷蔓牛は、うま味の強い赤身肉で脂の質も良い黒毛和種ですが、霜降り優位の現在の市場では評価してもらえません。大切に育てた命をきちんと評価してもらうためには、肉にするまでを見届けることが必要です。繁殖・肥育・精肉の一連の過程を同じ気持ちで一緒に取り組んでくれる仲間を、5年掛けて見つけました。子牛が育ち、食卓に並ぶまでの過程をしっかり見守りながら、納得のいく肉を皆さんに届けたいです。
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