▽「よりみち改修プロジェクト」~多世代の居場所を考える~
秋山さんはこれまでのように地域のイベント企画や場づくりだけでなく、一級建築士という専門性を活かし2023年1月に西粟倉村内で「一級建築士事務所ヒトトキ設計室」を開業。空き家再活用に向けたプロジェクトや、地域の居場所づくりに向けた調査や研究、施設改修計画などを手掛けています。そのなかで、10月に新しくリニューアルした「多世代交流拠点リフレッシュプラザよりみち」(以降「よりみち」)の設計改修における設計監理を担当されました。
―もともと「よりみち」にはよく通っていました。それはいろんなコミュニティに参加したいという気持ちもあったのですが、役場や中学校の近くにあり前面が開かれている豊かな場所だなと思ったこと、そして地域の居場所としてとても重要そうな場所だなぁという個人的な興味があったからです。「よりみち」に遊びにいくようになって約2年半の間、地域の方々からたくさんのお話をお聞きしたのですが、その中でも特に印象的だったのが「誰とも約束しなくても、ここに来たら寂しい思いをしないんだ」という言葉です。世代問わず孤独が社会問題になっている現代の中で、誰かを頼ったり、頼らずともただ同じ時間を過ごし、安心感を得られることの素晴らしさ、を改めて実感したことをよく覚えています。これまではご高齢の方々が中心となって利用されてきた施設ですが、この施設は世代を問わず地域の宝になるとも思いました。とりあえずここに来たら、孤独を感じず、何かしら充実して帰れる場所は、すごく大事だと思いました。
▽設計の中で大事にしたこと~交流とは何か~
―私は空間を設計することはあくまで手段に過ぎないと考えています。その空間でどのような人の行動が生まれ、その結果、地域内でどのような人と人の関係性が生まれるのか、そういったことが何より重要で何より私の興味のあるところです。それは設計の内容にも影響してきます。例えば、以前「よりみち」は開かない窓しかなくそれでも、手を振るだけであったとしても村の園児が散歩で前を通ることが楽しみだと利用者の方々からは聞いていました。
なので、窓を開けられるようにするだけでなく縁側を設け、中にいる人も外にいる人も目的は違えど近くを通った方々で、話したり、触れたり、笑ったりとコミュニケーションが生まれる空間を設計しました。また、縁側以外にも、靴脱ぎ履きが大変な方やベビーカーでも利用しやすいように土間スペースもつくりました。これらのような、内か外か曖昧な空間では気軽な会話や適度な距離感などの安心感が生まれると考えています。直接話さなくてもそばで地域の子どもたちが楽しそうに笑っている。そんな景色を近くで見ることができるだけでも、それはもしかしたら誰かの孤独を防ぐことにつながるかもしれない。そんなことを考えた設計です。「よりみち」はもともと多世代交流拠点としてつくられたものです。ぜひ、世代を問わず足を運んでみてもらえればと思います。
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