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自治体の皆さまへ

特集「かけがいのない日々とふたつの願い」

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岩手県洋野町

「ありがとう」「忘れない」そう何度も繰り返すレーナさん。
温かい眼差しで優しくうなずく、受け入れ先の上野てつ子さん。
多くの言葉を交わさなくても、通じ合う二人の心。
別れの時を告げるように、新幹線の発車の合図が鳴り響きました。

第2次世界大戦後に行方不明となり、ウクライナで生存が確認され、2006年に一時帰国を果たした上野石之助(いしのすけ)さん(故人・明戸地区出身)。
ロシアのウクライナ侵攻により、石之助さんの長女ザイチュック・ナージャさん、長男の妻ロハチョーバ・レーナさんと双子のウエノ・セミョンくん、ウエノ・マクシムくんが親族を頼り洋野町に避難してきたのは昨年4月。
洋野町での生活で心の平穏と落ち着きを取り戻すにつれて、祖国に残す家族の身を案じる気持ちが募る中、子どもたちの「お父さんに会いたい」という言葉で帰国を決意したレーナさん。自宅のあるウクライナ東部のジトーミルの戦況が落ち着いていることも気持ちを後押し、5月2日に帰国しました。
今回の特集では、避難中の生活や、携わった人たちとの交流の様子を振り返ります。

■春
セミョンくん、マクシムくんが大野小学校に初登校。全校朝会では、児童が学校行事の紹介や、歌を披露するなど二人を歓迎。ドキドキワクワクの学校生活が始まりました。
おおのキャンパスに出かけた遠足では、仔牛にミルクをあげたり、原っぱを元気に駆け回ったりしました。
レーナさんとナージャさんは着物の着付けを体験。日本の文化に触れ、地域の人との交流を深めました。

■夏
学校での生活にも次第に慣れ、学校外での活動が増える季節。初めてのプール学習では友達と水をかけあって大はしゃぎ。
大野鳴雷神社例大祭では獅子舞に興味津々のセミョンくんとマクシムくん。山車を引いたり、太鼓を叩き祭りを楽しみました。
ウクライナで理容業を営んでいるレーナさんは、感謝を込めて上野石之助(いしのすけ)さんの弟の左舘丑太郎(うしたろう)さんの散髪をしました。

■秋
受け入れ先である上野幸夫(ゆきお)さんの田んぼで稲刈り。鎌の使い方を教わり、みんなで稲を刈り取りました。
学校の「マラソン大会」ではマクシムくんが、2位と大健闘。「学習発表会」では頑張って練習した太鼓を披露するなど一生懸命取り組みました。
11月にはナージャさんがウクライナに帰国。皆さんからの温かい支援に感謝し、第二の故郷となった洋野町での思い出を胸に帰国の途に着きました。

■冬
小正月の伝統行事「なもみ」に参加したセミョンくんとマクシムくん。初めて見る赤鬼と青鬼に怖がることなく笑顔を見せました。
大正寺で行われた節分の豆まきでは、鬼の面をつけて参加。健康と幸せを願い豆をまきました。
通院していた大野歯科診療所では、目に涙を浮かべながらも治療を頑張ったセミョンくんとマクシムくん。先生やスタッフの皆さんに手作りの色紙をプレゼントしました。

■再会を誓う春
4月28日、大野小学校で行われた「お別れ会」。レーナさん、受け入れ先の上野てつ子さんも招待されました。
毎日元気に学校に通い勉強を頑張ったセミョンくんとマクシムくんに、久保田純子(じゅんこ)校長から表彰状とメダルが手渡されました。そして、これまでの生活の様子がスライドに映し出されると、二人は照れくさそうに笑みを浮かべ、学校生活を振り返りました。
「皆さんの温かい心に接することができて幸せでした。子どもたちに日本人の血が受け継がれていることを誇りに思います」と感謝するレーナさん。
お別れのあいさつで涙ぐむセミョンくん、マクシムくんと児童たち。「一緒に遊べて楽しかったよ」「また会おうね」と言葉を交わし、手作りの首飾りや寄せ書きの色紙が2人にプレゼントされ、昨年6月からともに過ごした、かけがえのない時間を心に深く刻みました。
二度目の春は再会を誓う春となりました。

◇大野小学校 久保田純子校長
「大野小で育んだ絆をいつまでも」
児童にとっては、文化も違い言葉も通じない環境でコミュニケーションをとるなかで、相手の気持ちを理解し認めて受け入れる思いやりの心が育まれたと思います。セミョンくんとマクシムくんは、日本語が上達するにつれ、友達との意思の疎通が図られ絆を深めているようでした。
二人の帰国は寂しいですが、優しい心を持ち続け、大野小で学んだことを将来に生かしてくれればうれしいです。彼らに一日も早く平和な日常が訪れることを願います。

◇「帰国後の安全な生活を願う」
昨年6月から4月までレーナさんと一緒に働きました。手先が器用で仕事を覚えるのも早く、会社の戦力として働いていただきました。
仕事以外でも、お食事会を開いたことが楽しい思い出です。帰国されてからも安全な生活が送れることを願っています。戦争が終息し、またいつか会う機会があったら、会社のみんなで楽しくお食事しましょう。

◇「再会できる日を心待ちに」
セミョンくん、マクシムくんは人懐っこくかわいらしい子でした。ナージャさんは清掃活動などに積極的に参加し、地域に解け込んでいました。
じゃがいもをお裾分けしたり、お手製のウクライナのおやつを頂いたりと、ご近所の付き合いをさせていただきました。
戦禍が収まらない中で帰国することは心配ですが、いつの日か再会できることを心待ちにしています。

■レーナさんから町民の皆さまへ感謝の手紙
※詳細は本紙7ページをご覧ください。

撮りためた写真の中で、目に止まったふたつの願いごと。
「ウクライナに帰りたい」ひとつ願いが叶いました。
もうひとつだけ叶えてください。
「世界が平和になりますように」
私たちみんなの願いを…

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