■楽曲に込めた思い
◇「愛しきわが出雲」
市長:10年前に、市の愛唱歌である「愛しきわが出雲」をまりやさんに制作していただきました。市では新年の行事や二十歳の集いなどで歌わせていただいていますが、出雲の歌があるのはすごいと言われます。
まりやさん:出雲大社の遷宮があった年に、みんなが一緒に歌える出雲の歌を作ってほしいという依頼を受けました。出雲だったら「これ」というものが自分の中にあったので、あの歌を地元の皆さんと一緒にレコーディングして残せたことを嬉しく思っています。
◇代表曲「人生の扉」「いのちの歌」
市長:まりやさんの曲の中で、私は「人生の扉」と「いのちの歌」の曲が特に好きです。「人生の扉」は、誰もが年齢を重ねるという普遍的なテーマを歌っていらっしゃって、自分の人生を重ねていく中で、過去を振り返り、未来に希望を抱くことができる素敵な曲だと思っています。
まりやさん:ありがとうございます。「人生の扉」は、年齢的なことを自分が初めて意識した50代に書いた曲です。幾つになったとしても、常に希望を持って歩いていきたい、どんな年齢も受け入れて進んでいきたいと願う、今の自分の心に沿った歌を作ってみようと思いついたのが、ちょうど51歳の誕生日でした。
あれからもう20年近くが経ち、自分が書いた曲なのに、年を重ねたことで、またちょっと聴こえ方が私自身にとっても違ってきました。20歳の時にそれを初めて聞いた人も、今はもう40歳近くになっていて、その年齢で聞くときっと違う聴こえ方になるかもしれないですね。年齢を歌ってみようという発想自体が、不思議と言えば不思議でしたが、誰もがふと感じるような気持ちを歌にできたら、と思い自然に書き上げた曲でした。
市長:「いのちの歌」の歌詞に、「本当にだいじなものは隠れて見えない」という部分があり、出雲をイメージして書かれた部分かなと勝手ながら想像しました。
出雲は、神在月に神様が集まり、ご縁など見えないものに対して話し合っておられるとされていますので、あの歌詞は非常に出雲の特徴的な感じを思わせます。
まりやさん:言われてみればそうですね。これは島根と京都が舞台のドラマ主題歌でしたが、「いのちの歌」というタイトルで書いてくださいと言われて、ふと思いついた歌詞の中に「ふるさとの夕焼けの 優しいあの温もり」という言葉があったのは、島根という故郷を強く意識していたからですよね。そして、「いのち」が連綿と続いていくことをたどっていけば、必然的に自分のルーツである出雲を思い浮かべながら書くことになります。人との出会いや運命みたいなものは見えない何かによって決められ、だからこそ「生かされていることに感謝したい」という想いを軸にして書きました。それは、誰にとっても普遍的なテーマですから。
作品というのは、一度自分の手を離れると、聴く人たちの歌になっていきます。「人生の扉」もそうですし、そこが歌の面白いところで、私は最初自分なりにテーマを見つけて書いているのですが、最終的には、聴く人がそれぞれの人生に照らし合わせる曲に育っていく。私が意図するところとは別の新しいニュアンスが生まれたり、その人にとって特別な意味を持つ大切な曲になっていったりすることが、まさに歌の面白さであり、作者として、歌い手としての冥利だと思います。
■これからの出雲
◇未来へ紡ぐ「出雲新話」
市長:総合振興計画「出雲新話2030」は、出雲における新しい話ということで、みんなで新しい出雲をつくっていこうという思いで策定しました。
私は、毎年市内全ての中学校を訪問し、生徒たちと意見交換をしています。その際、いつも生徒に言っていることが、三つあります。一つ目が、出雲は、箸や酒、相撲などの発祥の地といわれ、工夫して新しいものを生み出してきた地であること。二つ目が、国譲り神話にあるように、互いを尊重し、話合いによって、物事を解決してきた地であること。三つ目が、八百万の神々が集う神在祭にあるように、会議をして、多様性を認めながら、共存共栄を図ることができる地であることです。
ふるさとに誇りをもち、ここで縁あって出会い、一緒に育っていく仲間を大切にしてほしい、そんな思いを生徒に伝えています。
まりやさん:出雲神話にリンクさせて新しいストーリーを紡ぐというのは、とてもいいテーマだと思います。
撮影で初めて出雲に来られた人から、「本当にいいところですね」と多くの人に言われます。人も穏やかな気質で親切だし、景色も良くて、食べ物も美味しいので、すごくいい印象を持たれる。新しい人たちが入ってくることによって、また違うムードもできていくのかもしれませんが、出雲の良さを残しつつ、新たな人たちが来ても居心地のよいまちになってほしいですね。
■若者へのメッセージ
◇アンテナを張り、興味を抱く
まりやさん:子どもの頃には気づかなくても、後に出雲がいかに素晴らしい所だということを、たぶん感じることになると思いますが、今は、私がそうであったように、例えば「外には何があるんだろう」とか、そういう興味を持ちながら、自分の好奇心のアンテナで体験し、何か自分がやりたいこと、興味があることを探していくことがとても大事だと思っています。私はその探した先に、たまたま音楽がありました。
◇ふるさとがあることの強さ
まりやさん:私は、行ったり来たりできる「ふるさと」があることがとても嬉しかったです。例えば、東京生まれ東京育ちだと、東京で行き詰まってしまっても東京しかない。でも私には、海も山もあり、家族がいる「ほっこりする」場所がある。
「愛しきわが出雲」の中にも、「心の寄辺」という言葉を書いていますが、たとえ離れても、それがあることは幸運であり強みだと思います。特に出雲みたいな場所に自分のルーツがあるというのは、誇らしいことだといつも思っています。
少しでも誇りにしてもらえるような音楽をまた作っていきたいと思うので、一緒に頑張っていきましょう。
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