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そうだったのか!がん専門医による抗がん剤のお話〈第8回〉

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島根県奥出雲町

■内科 診療部長 池尻文良(いけじりふみよし)
[免疫チェックポイント阻害薬の効果のお話]
最近内容が難しいとご指摘を受けています。申し訳ありません。なるべくわかりやすくお話をするようにします。
さて、今回は免疫チェックポイント阻害薬の効果について、私が経験した症例をお話しします。患者さんは50代の男性でした。私が勤めていた病院を受診する前に、別の病院で治療を受けていました。その方は診断された時点で胃がんの末期状態で、肝臓には無数の転移がある状態でした。現代の医学では胃がんが他の臓器に転移している場合は根治が困難です。もちろんその病院でも適切な抗がん剤治療(標準化学療法)がなされたのですが、不幸にして病気は進行し、肝臓の転移のため、肝不全(肝臓が十分に働かなくなる病態)となってしまいました。
以前にもお話した通り、抗がん剤はもともと副作用が強いものです。そのうえ、多くの抗がん剤は作用した後に肝臓で処理され、無毒化されます。もし、肝臓が働かなくなれば、抗がん剤は肝臓で処理されず副作用ばかりが強くなってしまいます。つまり肝不全があるとほとんどの抗がん剤は使えなくなるのです。そういった理由から前の病院では治療の継続が難しいと判断され、ご自宅で看取りの方針となっていました。
そのような中、患者さんはセカンドオピニオン(他の医師の意見も聞いてみること)として私の外来にいらっしゃいました。肝不全のため黄疸(おうだん)が進み、私の見立てでは残された時間は2週間程度と思われました。前の医師の治療選択に全く間違いはなかったのですが、「何かできることはないか?」と相談され、肝不全状態でも実施可能と考えられている免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボを十分な説明と同意の上、使用することにしたのです。するとみるみる肝臓の数値が改善し、黄疸(おうだん)も消えたのでした!それは肝不全が改善したことを意味します。
残念ながら効果がみられたのは8週間だけでしたが、肝不全が改善したことにより、一般的な抗がん剤も使えるようになったのです。そのおかげで、その患者さんはその後2年と8か月の間、元気に治療に通ってもらいました。最終的には残念ながらお亡くなりになりましたが、2週間と見込まれた余命を2年8か月に延ばすことが出来たのです。

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