■シリーズ「博物館コレクション」第26回 男山神社 木造狛犬(こまいぬ)
安芸高田市歴史民俗博物館 学芸員 古川 恵子
◇狛犬
主に神社に置かれ神域を守っている霊獣です。この場合の「狛犬」は総称で、向かって右側で口を開く阿形(あぎょう)の獅子と左側で口を閉じる吽形(うんぎょう)で角のある狛犬の組み合わせが基本形です。両者に造形的な大差はありませんが角の有無が決定的な違いです。
しかし実際には獅子同士の組み合わせも多くあります。この場合正確には獅子一対ですが、一般的にはやはり「狛犬」と呼ばれています。
材質も木・石・焼き物・銅とさまざまですが、神前に置かれた木造がやがて神前の外、軒下の階上、さらには境内に置かれるようになったのに伴い風化防止のために石像に変化していくのが大きな流れのようです。
◇男山神社狛犬
ひのき材の寄木造りで、木釘によって留められています。両像とも尻尾はすでに失われ、彩色は一部を残し剝げ落ち、下地の白い顔料が残ります。
阿形のたてがみは巻き毛で参拝者に顔を向けているのに対し、吽形はたてがみが直毛で正面を向いています。角の形跡はないため、獅子と獅子の組み合わせといえます。
制作年を記すものはありませんが、たてがみの流れ、盛り上がる胸や前足の筋肉などから室町時代末期の制作と推定されています。稚拙さはなく、小型ながら安芸高田市を代表する狛犬です。
男山神社(吉田町)は、毛利隆元(1523〜1563年)が勧請(神の分霊を別の神社に迎え祭ること)し1547(天文16)年に社殿を建立したと伝わり、この狛犬の制作時期と一致します。
隆元が元就から家督を譲られたのはこの頃で、毛利家発展のため、当主として参拝に訪れる隆元の姿を見ていたのかもしれません。
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