脳脊髄液漏出症治療センター開設から2024年3月末で1年が経過しました。現在は週に約10件の硬膜外ブラッドパッチ(EBP)治療を行っています。患者の約60%が県内から、残りの40%は全国各地からです。全国的に治療施設が足りないのです。さらに当院のEBP治療は最先端で治療成績が良好です。そのため新規患者だけでなく、他施設でうまくいかない症例も紹介されることになります。
脳脊髄液漏出症は小児から高齢者まで幅広い年代に発症し、年齢により臨床像が異なります。20年前に福山で診療を始めた頃は、交通事故などの外傷による成人患者が一番の問題でした。現在は中高生を中心に10歳台の患者が約半数を占めています。起立性頭痛だけでなく、起立性調節障害(低血圧)、睡眠・覚醒障害(朝起きられない)、耐えがたい倦怠感、消化器症状(腹痛、下痢、食思不振)などが、この年代の主な症状です。不登校~引きこもりになる重症例も珍しくはありません。
この5年ほどで診断~治療手順はほぼ確立されました。脳脊髄液漏出症が疑われた患者には外来で脊髄MRI検査をします。特徴的な所見からおおよその診断が可能です。次に硬膜外持続注入(4日間の入院)に進みます。硬膜外麻酔の要領で挿入したカテーテルから、人工髄液を5~20ml/時間の速度で注入します。明らかな症状改善があれば脳脊髄液漏出症と考えてまず間違いありません。診断的治療と呼ばれる方法です。この症状改善は一時的で数日~数週間で効果が消えるのが普通です。
EBPは5日間の入院で行います。初日のCT脊髄造影検査で髄液漏出部位を診断し、2日目にEBP治療、3日間の安静~経過観察後に退院します。1~2週間の自宅安静をお勧めしています。1回の治療で約半数、1~2回の追加治療で90%が治癒、10%程度が難治例といったところです。現在EBP治療は4カ月待ちの状態です。治療施設拡充が急務です。
尾道市立市民病院 守山英二
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