■藍を継ぐ海
徳島県南東部の太平洋岸に位置する架空の町を舞台とした短編小説が表題作となった「藍を継ぐ海」が第172回直木賞を受賞したことは、もうご承知の事でしょう。著者の伊与原新さんは、父方のお祖父様が旧宍喰町のご出身で徳島県を身近に感じておられるそうです。また、元々は地球惑星科学という分野の博士で、古い地層の岩石から当時の地磁気を復元して、永い時の中で起きた地球活動の変化を研究されていたそうです。その為か、著書には地磁気から着想を得た作品がいくつかあります。今回の「藍を継ぐ海」で取り上げられたウミガメもまた、地磁気を頼りに回遊する生き物です。ここからは個人的な感想になります。普段、私は科学技術系の解説本や情報誌ばかりで、小説はほとんど読まないのですが、「藍を継ぐ海」は物語にウミガメの生態を上手く取り入れ、またその情報が正確な事、文章が簡潔で読みやすい事で、一気に読むことができました。この小説に登場する3人の中心人物には、それぞれにウミガメの生き様が重ねられているように思いました。様々な人間関係に翻弄されながら自身の将来に漠然とした不安を抱く中学生の少女は、砂浜から太平洋に向けて旅立つ子ガメ。長年、ウミガメ監視員を務めた元教師の高齢女性は、上陸産卵する環境が変わってしまった母ガメ。そして、アメリカ先住民族に縁のあるカナダ人青年は、大海原を飄々と回遊する若いウミガメ。それぞれの人物の生い立ちや考え方などを織り込み、それぞれがウミガメの「気持ち」を代弁しながら物語が進んでいるように思いました。著者の伊与原さんは、この短編小説を執筆するために蒲生田海岸や大浜海岸を訪れたそうで、その際にカレッタにも来館して頂けたとの事です。是非ともリニューアルしたカレッタにも来館して頂き、新たな着想で新作または続編などを執筆して頂けたらなぁと考えました。
館長:平手康市
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〒779-2304徳島県海部郡美波町日和佐浦369うみがめ博物館カレッタ「質問係」
■Question
ウミガメは方位磁石を持っているの?
■Answer
ウミガメ以外にも多くの生き物が方位磁石の様に方角を知る能力を持つ事が解っています。しかし、人が使う方位磁石の様な道具を持っているのではなく、体の中に地球の地磁気を感じる部分を持っているようです。しかし、それがどの様な仕組みなのかは、まだよく解っていません。
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