■感謝をつなぐ手~私たちらしく生きること~
今回の特集では、日々を丁寧に生きてこられたご夫婦の充実した時間についてお話を伺いました。そして話題は、これからの人生を豊かにする準備としての「終活」へ。価値ある日々を求めて生きるヒント、それを支える人たち、また、現在市が取り組んでいる終活事業について紹介します。
高井善博(よしひろ)さん(83歳)、千鶴子(ちづこ)さん(80歳)
“こんにちは”と、会った瞬間から満面の笑みで迎え入れてくれた高井さんご夫妻。生まれつき耳が聞こえないため、会話は手話で行っている「ろう者※」のお二人に、今までのこと、これからのことをお聞きしました。
※ろう者とは幼少期に聞こえなくなった人。手話を言語としている人。
千鶴子さん:
今回、取材を受けるかどうか正直迷ったの。でも夫に相談したら、何でもやってみようと後押ししてくれました。
結婚56年目を迎え、長い年月を共に歩みながら、多くの喜びと試練を経験してきました。私たち夫婦が心がけていることは、常にオープンで誠実なコミュニケーションをとることです。
良いことも、悪いことも、しっかり話し合って情報を共有することが大事です。隠し事はしないようにしています。信頼関係がないと幸せな生活は築けないですからね。
善博さん:
そのとおりだね。理容師として、約11年、自分のお店を持ち務めましたが、時代の流れを考え、理容業に見切りをつける決断をし、新たな技術職を求め、捺染会社に転職しました。周りの反対もありましたが、失敗しても自分自身の人生には自分が責任を持つという気持ちで挑戦し、結果として後悔することがなかったです。転職後は社会の中で多くの情報を得ることができ、視野が広がりました。
理容の仕事ではお客様と筆談などでの会話のやり取りや新聞からの情報に限られていましたが、会社では多様な人との交流があり、世界が広がる。もちろん、怒られることも増えましたし、ぶつかることもあります。でも、教えてもらえる幸せもある。人生には無駄がないですね。
千鶴子さん:
主人が決断したことなので、支えました。苦しかった時もありましたが、後から幸せになると信じてましたね。転機になったのはアメリカとカナダへの旅行。ナイアガラの滝やトロント、ニューヨークの街並みがとてもきれいで、食べ物や景色を通じて視野が広がったんです。見ること、知ること、すべてが楽しく、世界はこんなにも広いのかと圧倒されました。
80歳を超え、今後の人生をどうするか話し合う機会もあります。手話サロンで行った終活セミナーで得た学びなど、少しずつ、元気なうちに準備を進めています。飼っている猫のことも考えないといけませんし、夫婦で協力しながら未来に備えています。
今後の目標は主人のコルセットが外せたら、ゆっくり温泉に行きたいです。やはり夫婦で健康が一番ですね。
善博さん・千鶴子さん:
最後に、ろう者だからと馬鹿にしてほしくありません。自分のことを理解してほしいので、間違っていないと思うことはしっかり伝えます。人生、遠慮することなんてないですよ。
手話通訳者:宮崎幹子
取材中もそれぞれが感謝の気持ちを表し、前向きに歩んでいるのが伝わってきました。
次ページ(本紙参照)では手話サロンの講師やコーディネーター、市が取り組んでいる終活事業について紹介します。
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