■「生きていて良かった」と思える世界で
講談師 神田鯉花
▽落語と講談
よく落語と比較される講談ですが、会話調の話でお客さまを笑わせる落語とは違い、講談は「ト書き」と「台詞」で物語を読み聴かせることを主としています。
また講談では、張扇(はりおうぎ)と呼ばれる道具で台(釈台)を打ちながら、場面転換や物語の盛り上がりなどを「音」で表現します。七五調のリズムでテンポよく話が進んでいくことも講談の特徴です。
▽惻隠の情に救われた
大学を卒業後、東京の会社に事務職で就職しましたが、これが全く向いていませんでした。しくじりまくって半年で会社を辞め、アルバイトを転々としました。「もう、どうやって生きていけばいいんだろう」と悩んでいた時、アルバイト先の居酒屋で年配のお客さんに講談を知らないことを馬鹿にされ、「だったら聴いてやるよ」と寄席に行ったのが私と講談の出会いです。
師匠の神田松鯉(しょうり)は、よく「講談には惻隠(そくいん)の情がある」と言います。弱い立場の人に寄り添ったり、人を元気にしてくれたりする話が多い講談は、しくじりまくって辛かった私に元気をくれました。
どんどん講談にハマっていったある時、師匠の「天保水滸伝笹川の花会」という講談を聴いて、そのあまりのカッコ良さに「あ、入門したい」と思っちゃったんです。と同時に「でも、何をやってもしくじりまくる自分が講談なんてできるはずがない」と、何度も葛藤しました。
▽前座修業は大変
師匠に弟子入りすると、3カ月の見習い期間を経て「前座」になります。ここで初めてお客さまの前で講談が出来るようになるのですが、同時に4年間の「前座修業」が始まります。
前座修業では、楽屋で師匠方へのお茶出し、着物の着付けや片付け、出番終わりの高座返し(舞台転換)をします。「お茶を出すくらい簡単でしょう?」と思うかもしれませんが、これが案外難しい(苦笑)。お茶を出すタイミングを間違えると、師匠方の機嫌を損ねることになりかねません。また「ぬるいお茶」「あついお茶」など、好みも違いますから、それも覚えるのが大変でした。
▽しくじってばかりの人へ
幼稚園から高校まで、私は周りに溶け込むタイプではありませんでした。周りから浮いている自分がとても辛かったです。社会人になってからもしくじってばかり。
でも、生きてさえいれば、別のところに素敵な出会いがあります。別の仕事、別の仲間、「生きていて良かった」と思える世界がきっとあります。ただそれは、生きていなければ見つけることはできません。その場から飛び出したからこそ見える景色があります。私にとってそれが「講談」でした。
▽皆さまの人生を豊かに
寄席では講談はもちろん、落語や浪曲など、日本が誇る素晴らしい演芸が楽しめます。演芸は人生を豊かにします。皆さま、どうぞ寄席にお越しください。機会とご依頼がありましたら、ふるさと四国中央市で、私の講談をご披露させていただきたいと思います。
師匠が若い頃に使っていた張扇が「紙のまち資料館」に展示されています。幼稚園や小学校の遠足で資料館に行った時、私も何度も目にしていました。ぜひ一度、皆さまもご覧になってください。
Profile かんだりか
1994年金生町下分生まれ
川之江高校→京都産業大学
日本講談協会、落語芸術協会所属
2018年三代目神田松鯉(しょうり)(人間国宝)に入門。
師匠の鞄持ち、前座を経て、今年2月に二ツ目に昇進。
現在、寄席や地方公演に出演中。
兄弟子には、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの講談師・神田伯山がいる。
※完全版をWEBで公開中!
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