■第69回 南吉と知多の自然
新美南吉文学の特徴として、よく〝郷土性〟が挙げられます。たとえば代表作の「ごん狐」は岩滑を舞台にしていますし、「おじいさんのランプ」に出てくる大野や半田池など、具体的な地名を書いている作品も少なくありません。そして郷土を舞台にしながら、南吉はそこに息づく〝自然〟も描きました。彼岸花、ヒサカキ、ハンノキなど、南吉の作品を読めば、当時の景色に想いを馳せることができるでしょう。時に散歩を日課としていた南吉の日記を見ると、いかに彼が普段から周りの自然に目をやっていたのかがうかがえます。
六月。実るのは麦ばかりではない。路傍(ろぼう)の雑草も亦(また)実を結ぶ。こころみに手を草の中にさし出してみたまえ。草はいかに喜んでその実を分けてくれることか。(昭和12年5月26日の日記より)
花や木だけでなく、道端の雑草でさえ、南吉にとっては書き留めるべきものの一つであったようです。南吉は書きたいから書く作家でした。童話に限らず詩もたくさん残していて、南吉がふと心を動かされた、さまざまな草花や樹木、小さな生き物たちの命をうたっています。
新美南吉記念館では11月3日(祝)~令和6年1月21日(日)まで、企画展「詩と游ぶ・新美南吉と知多の自然」を開催します。知多半島をフィールドに活動している写真家 相地 透(そうちとおる)さんが写した自然の写真とともに、南吉の詩を紹介しますので、ぜひご覧ください。
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