■司馬史観に酔う
間もなくお正月ということもあり、今月は読書のお勧めにしました。
今年は、国民的作家・司馬遼太郎さんの生誕100年の年です。彼の作品に登場する主人公は、フィクションの域を超えた限りなくリアルなヒーローで、描かれる人物像を自らの人生の師として慕う読者も多いはずです。
私たちは、『坂の上の雲』では秋山好古(よしふる)・真之(さねゆき)兄弟に、『竜馬がゆく』では坂本龍馬に、『燃えよ剣』では土方歳三に憧れ、あたかも冒険活劇のように、心躍らせながら読み進めたものです。
司馬さんは、人物批評や歴史解説をナレーションのごとく文中に差し込んでくれるので、かなりの大作でも中学生になれば十分に理解し楽しめます。
問題があるとすれば、人物の描き方が見事過ぎて、司馬さん独自の歴史の見方「司馬史観」を鵜呑みにして信じ込んでしまうことです。
今は、テレビでも歴史検証番組が多く放送されていて、偉人の人物像が、最新の研究で大きく変わることもまれではありません。司馬史観とのギャップを楽しむことも、歴史ファンの新たな楽しみになりつつあります。
ちなみに昨夏、書店で『峠』(新潮文庫全3巻)を手に取りました。戊辰戦争時の越後長岡藩の家老、北越の麒麟児(きりんじ)・河井継之助(つぎのすけ)の半生を描いています。ほとんど無名であった人物に光を当て、ラストサムライとして死んでいく希代の英雄の存在を世間に知らしめしたわけです。
継之助は、時代を正確に読み解く才覚と小藩に踏みとどまるかたくなな忠義が、矛盾なく同居する不思議な人物です。彼と勝海舟の違いは? 歴史に何を残したのか?考え出すと面白いですよね。お薦めです。
それにしても、司馬さんが日本人や日本という国の在り様を問い続けた熱量には感服するのみです。正に知の巨人。
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