■病理医と病理診断
津島市民病院 病理診断科医師
市原亮介(いちはらりょうすけ)
◇はじめに
皆さまは病理医がどのような仕事をしているかご存知でしょうか?病理医は直接患者さんの前に出て、診察や治療に携わることがないため、あまりなじみのない存在かと思います。今回はそんな病理医がどんな仕事をしているのかをお話しさせていただきます。
◇病理診断と病理医
患者さんが病気を治療するためには、その病気がどういうものなのか(例えばがんなのか?感染症なのか?)を適切に診断する必要があります。この時最終診断として大きな役割を果たすのが病理診断です。具体的には、患者さんの身体から採取された検体をガラス標本にして、顕微鏡で観察して診断します。また病理診断は医師免許が必要な医行為であり、これを専門とする医師が病理医です。
◇細胞診断と組織診断
病理診断で日常の診療の一環として行われているのが、細胞診断と組織診断です。
細胞診断(細胞診)では、がんが疑われる患者さんの痰や尿などをガラス標本にして、顕微鏡で観察することでがん細胞の有無を調べます。子宮がん検診においても、子宮頚部からこすりとったものから細胞診断が行われており、また乳房や首のしこりから細い針を刺して吸引してがん細胞の有無を調べる場合もあります。
組織診断では、胃カメラや大腸カメラなどを行った際に病変の一部をつまみ取る「生検」という検査や、胃や大腸などを摘出する「手術」によって提出された臓器をガラス標本にして、顕微鏡で観察します。病気についての最終診断の他に、例えばがんであればその中でもタチの悪い性質なのかといった病気の詳細や、手術で病変が全部取り切れたかどうかなど、治療方針に役立つ情報を主治医に提供します。
細胞診断と組織診断で用いられるガラス標本は、国家資格である臨床検査技師が作製します。また更に専門的な細胞検査士の資格を有する臨床検査技師は、実際に標本を観察して病理医と共同で細胞診断に携わっています。
◇術中迅速診断と病理解剖
日常の診療の一環として行われている細胞診断と組織診断と異なり、術中迅速診断と病理解剖は特別な場合に行われる病理診断です。
術中迅速診断では、手術で切除する範囲を決定するために採取された組織をすぐに凍結させて標本を作製し、診断結果をそのまま手術室に報告します。具体的な例として、乳癌の患者さんの手術では、センチネルリンパ節というリンパ節にがんが転移しているかどうかを術中迅速診断で判定し、この結果によって腋の下のリンパ節を切除するかどうか決めます。
病理解剖(剖検)では、ご遺族の承諾のもとで病死された患者さんを解剖させていただき、死亡の原因は何なのか、生前の診断や治療は適切だったのか、どのくらい病気が進行していたのかなどを調べます。事故や犯罪に関連する法医解剖や医学教育のために献体していただく系統解剖とは異なります。
◇おわりに
病理医は直接患者さんの前に出ることはありませんが、病理診断という形で患者さんの診断や治療に密接に関わっております。それぞれの患者さんにとって適切な治療に繋がる正確な診断を提供できるよう、今後とも尽力して参ります。
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