■胃がん
津島市民病院 外科医師
杉浦孝太(すぎうらこうた)
◇胃のはたらき
胃のはたらきは“食道から入った食事を一時的に貯えて細かくしてから腸へ送り出すこと”と”胃酸などの消化液で食事の消化吸収を手助けすること”です。胃は豊かな食生活を送り、栄養を保つ上で非常に大切な臓器です。逆に、進行した胃がんや手術により胃の働きが悪くなると豊かな食生活を送ることが難しくなります。
◇胃がんとは?
胃がんとは胃の一番内側にある”胃粘膜”からできた悪性腫瘍(がん)のことをいいます。胃がんになる原因としては、ピロリ菌の感染、塩分の多い食事、喫煙などが考えられています。近年、ピロリ菌感染の減少や食生活の変化により胃がん患者の数は減少しているものの、がん患者全体からみれば今でも第3位と決して少ない病気ではありません。
◇胃がんの診断
胃がんは早期には症状がないことが多いため、バリウム検査や胃カメラなどの検診で発見されます。病気が進行すると、心窩部痛(しんかぶつう)(みぞおち周りの痛み)や体重減少、出血などの症状を生じます。症状や検査から胃がんが疑われた場合には胃カメラをすることで診断を行うことができます。胃がんと診断された場合はがんのステージ(ひろがり)を診断して治療の方法を決めていきます。具体的には、胃カメラやCT、超音波検査の結果から、がんの大きさ、胃の周りのリンパ節への転移、肝臓や腹膜などの遠くの臓器の転移を総合的に判断して治療の方針を決めています。
◇胃がんの治療
胃がんの治療は大きく分けて、(1)胃カメラによる治療、(2)手術、(3)化学療法(抗がん剤など)の3種類があります。早期の胃がんの中で、がん細胞の顔つきがおとなしいものには胃カメラによる治療(ESD治療)が可能です。胃カメラでの治療は胃自体を残したまま胃がんを切除できるので、患者さんの今後の生活にもっとも負担の少ない治療となります。胃カメラでがんが切除しきれない場合や、切除したものの想定よりがんが進行していた場合は手術が必要になります。手術ができないほどの進行したがんや再発してしまった場合は、化学療法を行うことがあります。現状、抗がん剤のみでがんが治ることは非常にまれですが、進行を遅らせることが期待できます。患者さんごとのがん遺伝子にもとづいた治療も最近進んでおり、化学療法のますますの発展が期待されています。
◇胃がんの手術
胃がんの手術は胃の切除とリンパ節郭清(かくせい)を行います。リンパ節郭清とは、胃がんが転移しやすいリンパ節を胃と一緒に切除することです。胃の切除の種類には幽門側胃切除(胃の出口側の切除)や胃全摘があります。胃の入り口側の小さながんに対しては噴門側胃切除(胃の入り口側のみの胃切除)も積極的に行っています。手術の方法として傷の小さな腹腔鏡手術を第一選択としながら、周りの臓器を巻き込むような大きながんに対しては安全性や根治性を考慮して開腹手術を提案しています。
◇手術後の生活
胃がんの手術を行ったあとは少なくとも5年間の通院が必要になります。定期的な通院を通じて、再発の有無や食生活、栄養状態の確認を行っています。また、手術後は手術前より胃が小さくなるため、入院中から患者さんに合った食事方法や食生活を、栄養士を含めサポートしています。手術を受けた患者さんの多くは、食事に気を遣いながら通常の食生活が可能になります。
◇さいごに
胃がんは早期に発見することで身体への負担が少ない治療が可能です。50歳以上の方には2年に1回の胃がん検診が勧められています。検診でなくても胃の不快感など症状がある方は一度病院で検査を受けてみてください。胃がんでなくともピロリ菌がいることが分かれば、ピロリ菌治療により将来の胃がんの可能性を減らすことができます。
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