◇糖尿病網膜症について
津島市民病院 眼科医師
木村友哉(きむらゆうや)
◇はじめに
糖尿病は全身の様々な臓器に合併症を作る病気です。代表的な臓器は神経、眼、腎臓(しめじ、と覚えます)で、眼では糖尿病網膜症という形で合併症を起こします。
糖尿病により血糖値が高い状態が維持されることで血管が障害されてぼろぼろになってしまい、網膜にある細い血管が障害されてしまうことで糖尿病網膜症は進行していきます。
進行すると最終的に失明に至ってしまうこともあります。
◇糖尿病網膜症の病期
糖尿病網膜症には、単純糖尿病網膜症、増殖前糖尿病網膜症、増殖糖尿病網膜症という病期があります。
◇単純糖尿病網膜症
網膜の毛細血管の壁が薄くなってコブのように膨れ上がったり(毛細血管瘤(りゅう))、血管やコブが破れて出血を起こしたり(点状出血)、出血や網膜の浮腫が吸収されたあとが白い病変となって残ったり(硬性白斑)します。これらの所見は、血糖コントロールをしっかりすることで消失することがあります。
◇増殖前糖尿病網膜症
網膜症がさらに進行すると、網膜の細い血管がつまりはじめ、血流が足りない状態(虚血)になる網膜が出現しはじめます。血流の悪い網膜の神経細胞はむくみ、白い斑点として見えるようになります(軟性白斑)。
◇増殖糖尿病網膜症
虚血の強くなった網膜の細胞は、酸素不足を補うために周囲の血管から新しい血管(新生血管)を作る因子(血管内皮細胞遊走因子)を出して対処しようとします。そうしてできた新生血管は、もともとある血管よりもろい構造をしており、血管内の水成分が周囲に漏れ出して網膜浮腫を起こしたり容易に破れて網膜内出血や硝子体出血を起こしたりしてしまいます。また、新生血管を足場として蜘蛛の巣のような膜(増殖膜)ができて、その膜が網膜を引っ張ることで網膜剥離を起こしてしまうことがあります。
◇糖尿病網膜症の治療
増殖前糖尿病網膜症や増殖糖尿病網膜症に進行してしまうと、眼科的な治療が必要となります。
◇網膜光凝固
酸素不足になっている網膜の細胞を間引くために網膜にレーザーを照射します。レーザーを打った部分の細胞は死んでしまいますが、残った細胞を生かすことで視機能を維持し、また増殖糖尿病網膜症へ進行する危険性を下げます。
◇硝子体手術
眼球内に出血を起こしていたり、増殖膜が網膜を引っ張っている場合にはそれらを取り除くために硝子体手術が必要になります。
◇硝子体注射
網膜に新生血管ができたり、もともとある血管の壁がもろくなったりして網膜に浮腫が起こることがあります。その場合には新生血管や浮腫を引かせるために眼に薬剤を注射することがあります。
◇さいごに
糖尿病網膜症の怖いところは、ある程度進行するまで自覚症状が出ないというところです。大抵の場合は、自覚症状が出てくるよりも前に治療しなければならない状態になります。
そのため糖尿病網膜症は自覚症状が出てから眼科を受診すればよい疾患ではなく、症状がなくても定期的に眼科の診察を受けることがとても大切な疾患です。
早期発見・早期治療で眼の機能の予後は大きく変わりますので、糖尿病をお持ちの方は最低でも年1、2回の眼科受診をしていただくようお願いいたします。
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