Q:能登半島地震での活動や現場で感じたことを教えてください。
彦坂:能登では主に被災者の搬送を行いました。豊川市民病院から搬送車に乗って被災地に向かい、被災した病院に取り残された患者を搬送しました。道路が崩れていたため渋滞がひどく、搬送に膨大な時間を要しました。
山本:災害が発生したことで何もなくなってしまうと感じました。道路が崩れ、水も出ない。今の時代とは思えない光景があり、災害の現実を目の当たりにしました。地理的な問題でボランティアなどの応援の到着が遅れていたため、通常行う医療活動以外のことも多くこなしました。土砂崩れによって孤立した集落に住む人々の安否と健康状態を確認するため、危険な道を通りながら現地調査に向かいました。
Q:DMAT(ディーマット)の活動を経て、市民に伝えたいことはありますか?
山本:被災者から「家で揺れを感じ、備えていたヘルメットをかぶって外に出た途端、大きく揺れてアスファルトが割れた」と聞き、まずは身の安全を守る行動をとることが大切だと感じました。また、食料などは最低3日分準備しておくべきだと思います。食料や物資がすぐに届くとは限りません。南海トラフ地震臨時情報が発令された時、水を買うなどの備えをされた方も多いと思います。その備えを日頃からの習慣にしてほしいです。
加藤:能登半島では「トリアージ」と呼ばれる、重傷者を優先した治療を行っている病院もありました。この地域で大規模な災害が発生した場合、市民病院でもトリアージを行うことが想定されます。そのため、物資などを求めて負傷していない方なども市民病院に駆けつけてしまうと救急医療に影響が出てしまう可能性があります。災害時の市民病院は避難所ではなく、救急医療を行う場所となることを知っておいてほしいです。
彦坂:今この瞬間に災害が起こったらどうなるのか想像してみてください。食料・トイレはどうするか。備えだけでなく、家族と安否確認の方法を決めておくことも重要です。豊川市で災害が起きた場合も、他地域からDMAT(ディーマット)が派遣されますが、南海トラフ地震ではあらゆる地域で被害が出ると想定されるため、支援は限られてしまうかもしれません。市民病院だけでも十分な医療が提供できるように体制を整えていますが、皆さんも防災意識を高め、日頃からの備えに取り組んでほしいと思います。
■災害派遣医療チーム DMAT(ディーマット)
3つの職種で構成(1チーム4・5人)
医師、看護師、看護師、業務調整員
◇DMAT(ディーマット)発足のきっかけ
平成7年に発生した阪神・淡路大震災では、医療提供が遅れ、救急医療を受けていれば助かった命が多くあったと考えられています。その経験から、被災地で救命活動を行う組織が必要であると認識され、平成17年、厚生労働省によって日本初のDMAT(ディーマット)が発足しました。豊川市民病院でも平成24年にDMAT(ディーマット)を発足し、平成28年熊本地震や令和6年能登半島地震などの被災地で活動しています。
◇災害時に行われるトリアージとは・・・
大規模な災害により多数の傷病者が発生した場合に、限られた医療スタッフ、医薬品を効率よく運用し、多数の傷病者を治療するため、重症度や緊急度に応じて治療の優先順位を決めることです。現場では、治療の優先度順に「トリアージタグ」と呼ばれる識別表で赤・黄・緑・黒の色分けを行います。
《優先順位1》
タグの色:赤
分類:最優先治療群(重傷群)
状態:生命に関わる重篤な状態で、直ちに処置を行えば救命が可能な状態。
《優先順位2》
タグの色:黄
分類:待機的治療群(中等症群)
状態:多少治療時間が遅れても生命に危険はないが、何らかの治療、処置が必要な状態。
《優先順位3》
タグの色:緑
分類:保留群(軽症群)
状態:軽傷で、今すぐの治療や搬送は必要がない状態。
《優先順位4》
タグの色:黒
分類:不処置群(死亡群)
状態:死亡、もしくは回復の見込みがない状態。
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