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とよあけ花マルシェコラム

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愛知県豊明市

「芽之花 乎花葛花 瞿麦之花 姫部志 又藤袴 朝皃之花」(萩(はぎ)の花尾花葛花(おばなくずばな)なでしこの花をみなへし また藤袴朝顔(ふじばかまあさがお)の花)は万葉集に登場する山上憶良(やまのうえのおくら)の歌。この7種の花の名前を連ねて「秋の七草」と呼ばれていますよね?「おいおい、この件(くだり)先月号そのままじゃないかね?君は広報を何だと思っておるのかね!」わぁー、ごめんなさい。今月の主役、フジバカマもここに登場しているので、ついつい同じになってしまいました。
フジバカマは中国東部原産のキク科ヒヨドリバナ属の一種です。梅雨の終り頃から咲き始め、花の遅いものは晩秋まで楽しむことができます。この花の呼び名の由来は花の袴(はかま)、いわゆる額弁(がくべん)が藤色であることから付けられたのでしょうね。フジバカマを乾燥させたものは香りがシュンランに似ていて、中国では、女性や子供がこれを好んで身に着けたといいます。このことから、中国ではこの花を、身に着ける蘭という意味の「佩蘭(ペイラン)」と呼ぶようになったといわれています。
万葉集に詠われていることから、8世紀中期以前には佩蘭が日本へ渡り藤袴と呼ばれていたことがわかりますが、その歴史はさらに古く、すでに西暦500年に陶弘景(タオホンジーン)が著した『神農本草経注(シェンノンベンツァーオジンジュー)』に「蘭草(ランツァーオ)」の名で登場しています。中国では古来、蘭、竹、菊、梅を草木(くさき)の中の君子(くんし)として称え「四君子(しくんし)」と呼び、このうち「蘭」は、現代ではシュンランを指します。しかし、郭沫若(グオモールオ)など中国の歴史研究者の見解では唐代以前の詩文に登場する蘭はすべて蘭草、つまりフジバカマであるとのことです。「へ~、フジバカマって、その辺で見かける野草だと思ってたけど、高尚な花だったんですね~?」そう、在野ながら歴史と気品を併せ持った存在なんです。
万葉集には一首しか登場しないものの、平安時代になり、古今集には藤原敏行をはじめ、多くの歌人がこの花を詠んでいます。その巻第四、紀貫之(きのつらゆき)の一首「屋とりせし 人の形見可 藤は可満 忘られ可多起 加尓々本いつ々」(宿(やど)りせし ひとのかたみか ふじばかま 忘(わす)られ難(がた)き 香(か)に匂(にお)いつつ)は、一夜の宿を貸した美しい女性の香(かぐわ)しさを、フジバカマの香りに例えて詠ったもの。この歌からも、当時のフジバカマのイメージが、素敵な香りを意味していたことがわかりますね。
まだ昼間の暑さの中、野山に出かけるのも少しおっくうに感じる時節ですが、どこかでフジバカマを見かけたなら、どうぞその歴史背景を思い浮かべながらご観賞いただければ幸いです。

執筆 愛知豊明花き流通協同組合 理事長 永田晶彦

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