節気は処暑(しょしょ)の次候(じこう)、そして末候(まつこう)へと移ります。処暑の次候「天地始粛(ティエンディーシースー)」(てんちはじめてさむし)は、気温の低下ですべての生き物の精気が徐々に落ち着き、草の一部は最低気温に耐えられず黄化しはじめる頃を表しています。「何言ってるの!まだまだ暑さ猛々しくて、日照りで草が黄ばむことはあっても、寒さで枯れ始めるなんてことがあるもんですか!!」いゃいゃ〜、おっしゃる通りですね。二十四節気七十二候は古代中国の旧都長安(チャンアン)(ちょうあん)=現代の中国西安(シーアン)(せいあん)市あたりの気候を基準に作られたものなので、これを日本の本州南岸地域に照らし合わせるのは無理があります。ちなみに2023/8/31の西安の最高/最低気温は27℃/19℃で、これは名古屋の同年お彼岸過ぎに相当します。「なるほど〜、暑さ寒さも彼岸までっていうけど、節気の御本家において、この感覚は処暑のものなのね?」はい、その通りです。彼岸のお中日 = 秋分なので、本州南岸地域が涼しくなるのは二十四節気にある感覚よりも2節気分程度遅れていると思えばよさそうですね。
さて、この残暑において、私たちの目を和ませてくれるのがスイフヨウの花です。スイフヨウはアオイ科フヨウ属に含まれる園芸品種で、咲き始めの花色は純白であるものが、数時間後にはピンク色になり、さらに時間が経つと紅紫色(べにむらさきいろ)に変化する様子が特徴的な花です。育種(いくしゅ)の来歴ははっきりしていませんが、中国清朝(しんちょう)の康煕(こうき)27年(1688年)陳淏(チェンハオ)によって著された園芸書『花鏡(フアジン)』(かきょう)巻四〈芙蓉(ふよう)〉の項に「…一種早開純白向午桃紅。晩變深紅者名酔芙蓉。…」(…一種(いっしゅ)、つとに開いて純白、昼に向かいて桃紅(ももべに)、晩に深紅(しんく)に変わるものを酔芙蓉(すいふよう)と名付く…)とあることから、これ以前には中国で愛好されていたと考えられます。また、弘化(こうか)元年(1844)刊の岩崎常正(いわさきつねまさ)筆『本草図譜(ほんぞうず ふ)』に酔芙蓉の花色の変化の図が示されており、この頃までには日本へ渡って来ていたようです。
まだ気温が高いので、スイフヨウは紅色に染まった後、夕刻までには萎れてしまいます。でも、だんだん涼しくなるにしたがって花もちが良くなり、翌日の朝もしっかり咲き残るようになります。「ふふふ、暑いときは汗でアルコールが飛んじゃうけど、涼しいとお酒が残って二日酔ってとこね?」おやおや、落ちをとられてしまいました。それでは、おあとがよろしいようで。
執筆/愛知豊明花き流通協同組合
理事長 永田 晶彦
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