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良寛をたどる。

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新潟県出雲崎町

このコーナーでは、良寛記念館に所蔵されている良寛に関する作品をご紹介します。
良寛遺墨歌切『かぜまじり・よもすがら(二首)』
二首目 和歌『よもすがら』部分

■原文
餘毛春駕良久散乃
意保理耳和礼於連者
春幾能波於努幾阿
良禮布留奈里

良寛書

■読み下し文
夜(よ)もすがら
草(くさ)の庵(いほり)に
我(われ)おれば
杉(すぎ)の葉しぬぎ
霰(あられ)降(ふ)るなり

良寛書

■意訳
私が草庵に居ると、外は風と雪と雨がまじり合いながら降ってきた。私は凍えて寝入ることができなかった。すると今度は、杉の葉を押し分けて霰も降ってきた。寒さと霰が草庵を打ち付ける音で、益々眠れないのである。
私は、そんな冬の寒い夜に、和歌二首「かぜまじり・よもすがら」を結んだのである

■解説
先月号の『かぜまじり』と今月号の『よもすがら』の和歌二首は、内容がつながっている。「かぜまじり」で場面描写される「風まじり 雪は降りきぬ 雪まじり 雨は降りきぬ」の寒空の中、さらに当歌で「杉の葉しぬぎ 霰降るなり」と、霰が草庵を打つ音まで加わり、良寛は益々眠れなくなったと記している。そして、そんな寒さと喧騒の中、夜通し考え詠まれたのが『かぜまじり・よもすがら』であるとしている。また、良寛芸術を代表する書体については、数名の良寛書の目利きの方々から意見を伺う。その感想は、「素晴らしい作品であるが、妙に整っているというか静かな感じがする」であった。何故なのだろうか。
現在、良寛書の正式な鑑定士は存在しない。その原因の一つに、良寛の書への関わり方がある。よく「書は人柄を表す」と云われる。それは、書家が自分の精神、その生き様を紙面に写すからである。しかし、良寛からすると、書家の書は、綺麗に書いて自分を良く見せようという「偽りのこころ」であり、だからこそ「偽りの字」であるということである。良寛は、そういった書家の心を見透かし「書家の書」を嫌いなものの一番に挙げている。
良寛の書のスタイルを一言でいうと「胡麻化(ごまか)さない」ことだろう。実はそれが厄介とされている。良寛は、その時の状況で書の雰囲気が変わる。お酒に酔いながら、お礼として、追いかけられ、監禁されて等、状況で書体に変化が見られる。それ故、良寛の書であることが立証されている作品の中でも、疑いたくなるようなものも存在してしまうのである。それだけに、良寛の鑑定は難しいとされる。そしてなにより、その人気から贋作が大変多いことも挙げられる。目利きの感じた当作品の「静けさ」というのも、自らを胡麻化さない良寛のその時の心情なのだろう。
では、当作品の書体から伝わる「静けさ」とは、どのような状況であったのだろうか。筆者は、先月号でも注目した「雁」が全てを物語っていると考える。凍えて眠れない寒空の中、当時「あの世とこの世を渡る鳥」と呼ばれた雁の鳴き声が聞こえたのである。良寛は自分を呼んでいるのだろうかと、死が脳裏をよぎったのかも知れない。そんな最後の場面を覚えながら、静かに、当和歌二首を書したのではないだろうか。
勝手な想像でしかないが、そう読み解くことで、作品から一層「静けさ」が伝わるのである。
良寛記念館 館長

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