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加茂の風土記 花立遺跡の「田領」墨書土器(1)

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新潟県加茂市

ここに紹介する花立遺跡の墨書(ぼくしょ)土器は令和二年の発掘調査で出土した。平安時代の須恵器無台杯(すえきむだいつき)の底部に墨書されたもので、二文字確認できる(写真1)。
出土した当初は、一文字目は「田」と読めたが、二文字目は容易に判読できなかった。その後、古代史の研究者から「田□〔領ヵ〕」ではないかとの指摘を受け、重要な墨書土器であることを認識した。
まずは、インターネットで閲覧できる木簡庫、全国墨書・刻書土器データベースを活用し、「田領」を検索した。その結果、墨書二点、刻書二点、木簡四点に「田領」の文字がみられることが分かった。本稿では、「田領」と確信するに至った類似例と比較検討した結果を記す。
墨書土器は山形県鶴岡市山田遺跡から出土し、明瞭に「田領」と読める。刻書は栃木県上三川町と宇都宮市にかけての上神主(かみこうぬし)・茂原官衙(もばらかんが)遺跡から出土した文字瓦にみられる(写真2)。木簡は二点が石川県下から出土している。津幡(つばた)町加茂遺跡の第五号木簡加賀郡牓示札(ぼうじさつ)、金沢市畝田(うねだ)・寺中(じちゅう)遺跡第十一号木簡で、新潟県では上越市の延命寺(えんめいじ)遺跡から出土した第二十一号木簡に「田領」の文字がみられる(写真3)。
花立遺跡の〔領ヵ〕の字形を偏(へん)(左側)と旁(つくり)(右側)に分解してみると、偏の〔令〕は人偏(にんべん)の〔イ〕のように二画で記し、旁の〔頁(おおがい)〕は〔欠〕のように省略した字形となっている。この特徴を類例と比較すると、瓦や木簡に記された〔領〕も偏は〔イ〕のようになり、旁は上半部が異なるが下半部は〔人〕字状になるところは類似する。上半部は〔ろ〕のようにみえるが、花立遺跡の字形はそれが崩れたものと見えなくもない。
写真4は長岡市八幡林遺跡から多く出土した墨書土器「大領(だいりょう)」の一例である。〔領〕の字形は木簡や文字瓦のものとほぼ同じである。写真5は十四~十五世紀に記された日記の中に認められる〔領〕の字である。墨書や木簡などより五~六百年ほど後世のものだが字形は類似している。
このように、類例と比較することで、花立遺跡の墨書土器が「田領」と読める可能性が高いことを示せたと思う。では、「田領」とは何を意味するのか。次稿で紹介したい。
(伊藤秀和)

※人偏(にんべん)の〔イ〕の「イ」は環境依存文字のため、置き換えています。正式表記は本紙をご覧ください
※写真は、本紙をご覧ください。

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