■山は動きだしたか
南魚沼市長 林 茂男
「山が動いた」憲政史上初めて女性の衆議院議長となった故土井たか子さん。変化が生じようともしない盤石な事態が変動するという意味で、当時の政局を表現し流行語にもなりましたが、今、市の森林状況も少し当てはまるかも。令和4年5月号の本コラムで表題「美しい里山を遺(のこ)したい」として新たに着手する「里山整備緊急5か年事業」への意気込みを書きましたが、あれから2年余り。予想を超える反響と進捗にようやく手ごたえを感じられるように。全国でも例をみない9割補助、市がめざしたひとつに有害鳥獣の被害防止にもつながる緩衝帯づくり(雑木を含め樹種を選ばず里山をベルト状に整備)もありました。行政区などから多くの手が挙がり、今や順番待ちの状態に。その訳は、予算額の不足というよりも仕事需要に作業を担う側が追いつかないことが大きい。森林組合は人手が足りず手一杯の状況という。これはうれしい悲鳴で、動かなかった山がついに動きだした、という思いです。移住者が組合に就職したり、市の起業家事業で採用された若者の林業と環境問題をマッチングさせた新規事業も。市内の建設会社では、これまでなかった林業部門を設置するなど、新たな動きが。やがて本旨である建材利用の生産森林業が再生し、製材や合板制作、材を余すことなくチップや木質燃料の利用を進める。植林や保育も含めたサイクルが健全に回りだす、そんな姿を夢見たい。
市内で真っ先に手を挙げ見事に事業を進めてくれたのが大和・三用地区の谷地集落のみなさん。3年がかりで集落の里山は見違えるほどに。この夏、その完成式に私を呼んでくださった。式典後に地区の老いも若きも参加した大もつ焼き祝賀会。事業に携わった森林組合の作業員のみなさんもその席に。もうもうとした煙の中で、すでに会話は次の取り組みについて、みなさんが大声で和気あいあいと。私がしきりに目を擦(こす)っていたのは煙が沁(し)みただけでなく、あまりにうれしかったから。地域の大人の姿を子どもたちは必ず見ていてくれるはず。昔人曰(いわ)く、「山が荒れれば里が荒れる。里が荒れれば人心が荒れる」と。
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