今回は、真夏の昼下がり、散歩に出かけた西脇順三郎先生が、旧鉄砲町の真福寺の坂で出会ったことを、いかにも重大事のように詠んだ詩です。詩集『宝石の眠り』に載っている、多くの研究者から注目された有名な詩を紹介します。
まさかり
夏の正午
キハダの大木の下を通つて
左へ曲つて
マツバボタンの咲く石垣について
寺の前を過ぎて
小さな坂を右へ下リて行つた
苦しむ人々の村を通り
一軒の家から
ディラン・トマスに似ている
若い男が出て来た
私の前を歩いていつた
ランニングを着て下駄をはいて
右へ横切つた
近所の知り合いの家に
立ち寄つた
「ここの衆
まさかりを貸してくんねえか」
永遠
人通りの少ない真夏の昼下がり、ランニングシャツをきた男が、まさかりを借りに行く光景を一見まじめに、そしてユーモアを混じえ、若い男をディラン・トマスというアルコール中毒で死去した英国の詩人にたとえて書いた詩です。西脇先生はいつも「永遠」ということを考えており、遠い過去から未来まで、この男と出会ったのも「永遠」の中の一瞬に過ぎないと、それまでの風景をがらりと変えて「永遠」と結んでいるのが、なんとも言えず不思議な余韻を残しています。
(西脇順三郎を偲ぶ会会長 中村忠夫記)
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