大晦日(おおみそか)から正月にかけては、なんとなく改まった気分になりますが、今回は元旦を詠んだ西脇先生の詩を紹介します。その当時、東京におられた西脇先生はどんな気持ちで正月を迎えたのでしょうか。詩集『禮記(らいき)』より、遠い故郷に思いをはせて詠んだ詩です。
元
あけぼのに開く土に
みみ傾けるとき
失われた郷愁(きょうしゅう)の夢を
追う心はもどってくる
ああまた人間のそこ知れない
流浪(るろう)の足音に
さそわれてあわれにも
ふるさとの壁にうつる
古塔の影にさすらい
あたらしい露を桜の酒盃(しゅはい)にのむ
山はきらめく
くもの阿修羅の
あかつきの祈りは
この詩は西脇先生が71歳の頃、1月3日の読売新聞に掲載された詩です。元旦を詠んだ詩は、この他に詩集『第三の神話』に「元旦」「春の日」、詩集『鹿門(ろくもん)』に「元」「正月のことば」「元旦」などがありますが、いずれも読売、毎日、産経新聞などに掲載されました。
西脇先生は若い頃、小千谷に背を向けることが多かったと言われていますが、歳をとるにつれ故郷に思いを寄せた詩が多く散見されます。この詩などは故郷を詩情豊かな言葉でつづられ、感動を誘われます。
(西脇順三郎を偲ぶ会会長 中村忠夫記)
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