2月は真冬の季節。西脇先生の詩には故郷を詠んだ詩が多く散見されますが、小千谷の冬を詠んだ詩は見当たりません。今回は、旧制小千谷中学校に通った頃の思い出を綴った詩を紹介します。西脇先生の最後の詩集『人類』からの抜粋です。
郷愁(きょうしゅう)
ああ醍醐寺(だいごじ)の塔の色をしのぐ
トウガラシを強烈に利かした
金平ゴボウで辛口の酒を飲むとき
果てしないうらがなしさが湧く
あたかも郷土の中学を憶(おも)うとき
マムシが出るむし暑い日の
路傍(ろぼう)の古の悲しみのように。
行灯の明りで宿題の水彩画を
明日の午後の図画の時間に
まにあうために家の庭から切つてきた
薔薇(ばら)を写生して一夜をあかした
なさけない運命よ。
(中略)
アルミの弁当には
タラコかまたは
大豆を醤油で辛く硬く煮て
杉の皮をかむ
塀の外へ出て桐の生えた土手に
足をなげだして
クイナを思いながら。
また時には特有のにおいがする
小使室でアンパンか
食パンの切りみを買つて
砂糖をふりかけて食う。
ボタモチはアルミに入れるのも
あじけないと思うのか
見たことがなかった。
(後略)
西脇少年が上ノ山にある旧制小千谷中学校に通った頃の様子がユーモラスに書かれており、この詩を読むと85歳の西脇先生の郷愁にかられた心境が伝わってきます。
(西脇順三郎を偲ぶ会会長 中村忠夫記)
問合せ:図書館
【電話】82-2724
<この記事についてアンケートにご協力ください。>