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市長随想

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新潟県柏崎市

■頌春(しょうしゅん) 再読
市長 櫻井雅浩

『雄気堂々』『もう、きみには頼まない』などを書いた小説家、城山三郎さんと東京電力社長・会長から経団連会長として活躍された平岩外四さんとの対談集『人生に二度読む本』を古本で買っていた。もうお二人とも故人となられた。
12冊の本が紹介されている中でも私に身近であったのは中島敦『山月記』夏目漱石『こころ』であった。それぞれ繰り返し読んできた。

隴西(ろうさい)の李徴(りちょう)は博学才穎(さいえい)、天宝の末年、若くして名を虎榜(こぼう)に連ね、ついで江南尉(こうなんい)に補せられたが、性、狷介(けんかい)、自ら恃(たの)むところ頗(すこぶ)る厚く、賤吏(せんり)に甘んずるを潔(いさぎよ)しとしなかった。
(『李陵・山月記』中島敦(新潮社)から引用)

と始まる小説『山月記』は、才気あふれる詩人でもある主人公が、その自尊心ゆえに身を虎に変えられてしまい「人」に認められたいがゆえに「人」から遠ざけられた話である。城山・平岩両氏は「生活と芸術の背反・苦悩」と読み解いた。ある意味生活という現実と、芸術という理想の相克(そうこく)であろう。
『こころ』も同様なのかもしれない。予備校生の頃(恐ろしいことに43年前!)の先生に、君たちに漱石は早い、まだ分からないだろう、と言われていたことを思い出す。『二度読む』の泰斗(たいと)も、この小説は単なる男女の三角関係を描いたものなどではなく、豊かさの中で気概を失いつつある日本人が自らの内面「心」を見つめるものである、と解いている。

往(ゆ)け
涯(かぎり)なきこの道を
究めていよゝ遠くとも
わが手に執れる炬火(かがりび)は
叡智(えいち)の光あきらかに
ゆくて正しく照らすなり
往かんかな この道を
遠く遥(はる)けく往かんかな
(慶応義塾塾歌から引用)

皆さまのそれぞれの「心」を想像しながら前に進んでまいります。よろしくお願いいたします。

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