■その十二 大川
池波正太郎が幼少の頃、祖父母や母、町の人の皆は、現在の隅田川を大川と呼んでいました。江戸時代から、一大幹線水路であった大川、その四季折々に醸し出す風情とともに両岸に暮らす人々の生業が営まれてきました。池波正太郎もこの川ととともに育ち、作家となり、江戸を舞台とした作品では必ず大川が登場します。小舟ほどの大きさがある大鯉が登場する、「鬼平犯科帳」の名作・大川の隠居。「剣客商売」では秋山小兵衛が、妻・おはるの操る自家用舟で大川を行き来する様子が毎回のように描かれます。藤枝梅安は馴染みの料亭、橋場の「井筒」へ出かける時は大川を舟で登ってきます。雲霧仁左衛門一味の連絡所も橋場にありました。池波正太郎は、柳橋付近から川沿いを散歩するのが好きで、時には橋の上からかなり長い時間水面を見つめていることもあったといいます。今では、隅田川テラスが整備され、両岸の台東区、江東区、墨田区の池波が書いた作品の地が浮き彫りにされよくわかります。池波は「大川テラス」と名付けてもらいたかったかもしれません。
問合せ:中央図書館池波正太郎記念文庫
【電話】5246-5915
<この記事についてアンケートにご協力ください。>