○ウェルビーイングの視点から様々な人生のあり方を考えてみる
区長:品川区も、そして日本航空様もポーラ様もウェルビーイング*5の取り組みに力を入れています。及川さんはウェルビーイングについての書籍*6を出されていて、私も拝読し参考にさせていただいています。
及川:ありがとうございます。「幸せ」とはなんだろうと考えたら、ハッピーは短期的な幸せなんですよね。一方、ウェルビーイングは長期的、持続的なもので、人生には様々な浮き沈みがあるけれども、ウェルビーイングという大きな視点で考えて幸せをどう捉えるか。例えばウェルビーイングに人との関係を築くには?とか、ウェルビーイングに働くとは?とか。人生のあり方みたいなものを考える一つの視点がウェルビーイングだと思います。それを仲間と研究できたらどうなるだろうかと考えて、ポーラでは私の社長時代に社内に「ポーラ幸せ研究所」*7を立ち上げました。
鳥取:どのような活動をされていたのですか。
及川:30人くらいのメンバーがそれぞれテーマを設けて自由に活動していて、3カ月に1回中間発表、1年に1回最終発表を行い、アウトプットへとつなげていました。テーマは本当に様々で、働く幸せを考えるチーム、ビジネスパートナーであるポーラのショップオーナーたちの店舗の幸せを考えるチーム、あるいは美容と幸せを考えるチームなど、「ウェルビーイングについて考えよう」と投げかけた時に、解釈の仕方って本当に様々で、こんなことを考えるのだと驚かされました。1人、「品川区の幸せを考える」というテーマで活動している社員もいました。
区長:それはありがたいです。
及川:五反田バレーユニバーシティ*8のような取り組みに参加させていただいたり、地域の子どもたちや町会などと接点を持ちたいと言って、ポーラ本社のロビーに並ぶアート作品を子どもたちが見学する機会をつくったり。会社に小さなお子さんたちが来ているのを見ると、みんなほっとしたり、元気になったりするんですね。お子さんのためにやろうと思ったことが、実は社員のウェルビーイングになっていたりして、ユニークな試みでした。
区長:今のお話を伺うと、「つながる」って大事だと改めて思いました。世代間のつながり、地域と地域のつながり、企業と行政のつながり、今まで接点のなかった者同士がつながると、思いもかけない“化学反応”や連携が生まれたりしますよね。
鳥取:幸せ研究所の活動が、ほかの社員の方たちへ影響していることはありましたか。
及川:取り組んでいるメンバーが楽しそうなので、そういう意味ではみんなが関心を持って応援しているという雰囲気がありましたね。
鳥取:幸せな社員は生産性や創造性が高いと言われていますが、そうしたことは実感されていましたか。
及川:次々にアイデアが湧いてくるということはあるようでした。幸福度が高いと、人とつながろうと思う気持ちも強くなります。人とつながることで、自分の幸せだけではなく、目の前の人、チームの仲間、組織や社会の幸せを考えるようになる。そこからまた、新しい試みが生まれてくるように感じました。
区長:ウェルビーイングが向上したら、すぐに業績につながり、結果が出るということではないかもしれません。しかし持続的、長期的な視点で捉え、社員のやる気や意識があがっていくことで、結果としてはポジティブな変化が出てくるのだと思います。鳥取さんはウェルビーイングについて、どのように捉えていらっしゃいますか。
鳥取:私たちはこれまで、安全・安心な移動をお客さまに提供することを第一に考えてやってきました。しかし、コロナ禍で移動が途絶えてしまった時に、私たちの会社の存在価値や社会的意義とは何だろうかと…。そこから議論が始まり、移動を通じた「関係・つながり」を持つことが大事だと気がつきました。それは人と人だったり、人とモノだったり、人と地域や場所だったりするのですが、そこに着目して移動の先にある関係・つながりを創造し、提案していこうという取り組みを進めています。例えば特定の地域とつながりを深く持つことで、自分の暮らすまち以外に会いたいと思う人がいたり、愛着を感じるお気に入りの場所があったりすることは、人々の幸せ、すなわちウェルビーイングにつながることだと考えています。
区長:コロナ禍をきっかけに、自分にとっての本当の幸せ、人や場所とつながることについて考えさせられました。
鳥取:そうですね、私たちが持っている飛行機というインフラを使って地域の活性化を図り、社会課題を解決しながら私たちも成長していく。そしてそれがサステナブル*9な未来の実現にも貢献できる。これは会社のウェルビーイングでもありますね。昨年は、移動を通じた関係・つながりを実現した未来を描いた「JAL FUTURE MAP(ジャルフューチャーマップ)」*10も作成しました。
区長:ビジュアルで見せていくことも、とても大事ですよね。
鳥取:おかげさまでほかの企業様にも共感いただき、あまり形にはとらわれずに、柔軟な発想でやっていければと思っております。
*5 ウェルビーイング
Well-being(ウェルビーイング)とは、「よい状態」、つまり心身ともに満たされた状態を表す概念で、もともとはWell(よい)とBeing(状態)を組み合わせた言葉。「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念」と厚生労働省では定義している。社会的に良好な状態とは、他者との関係が良好であることを意味する。
*6 書籍『幸せなチームが結果を出す』
ウェルビーイングの視点に立った会社経営をテーマとした書籍。及川美紀さんがポーラの社長時代に出版した。
*7 ポーラ幸せ研究所
2021年に設立されたポーラ社内研究チーム。幸せのメカニズムを科学的に分析し、実践・トライandエラーを積み重ね、そこから得た知見を社会に提供することを目的とし活動している。
*8 五反田バレーユニバーシティ
一般社団法人である五反田バレーと地域企業がスタートさせた、「学び」と「交流」をテーマにした地域共創プラットフォーム。区民・企業・教育機関・行政がつながり、地域に開かれた学びの場を提供し合うことでオープンイノベーションを生むことを目的としている。
*9 サステナブル
「持続可能な」「持続力のある」という意味を持ち、環境や社会、経済などのあらゆる場面において、将来にわたって持続可能な状態を保つことを指す。2030年に向けてより良い社会を目指す17の国際目標のSDGsの活動もサステナブルを掲げている。
*10 JAL FUTURE MAP
JALグループが作成した「移動を通じた関係・つながり」が実現した未来を描いたマップ。ここに描かれている、移動がもたらす「新しい景色との出会い」、「地域で暮らす多様な人々とのつながり」、「また会いたいと思える人や土地への愛着」という価値は、地球環境や地域社会の豊かさ、人々の幸福、すなわちウェルビーイングにつながっていると考えている。
<この記事についてアンケートにご協力ください。>