区内在住者初となる「重要無形文化財の保持者(いわゆる人間国宝)」に選ばれた落語家の五街道 雲助師匠をお招きし、新春対談を行いました。
人間国宝の認定を受けた際の話や、墨田区に住み続けているからこそ分かる区の魅力などを伺いました。
◆人間国宝認定の知らせを受けて
◇人間国宝の認定の連絡を受けた際の気持ちを教えてください。
師匠:文化庁から突然、電話がかかってきたんです。私が人間国宝の候補になっていることなど全く知らなかったので、仕事の依頼かと思ったら、「あなたが人間国宝に選ばれました」とおっしゃる。ずっと騙(だま)されていると思っていましたが、京都の文化庁で認定を受けて、本当の話だとやっと分かりました。人間国宝は、私がもつ技芸を後世に伝える立場。認定されて嬉(うれ)しい反面、今は責任感の方が強いですね。
◇認定後、周囲の反応や師匠自身の中での変化はありましたか?
師匠:過去に「紫綬褒章」などを受章しましたが、そのときより何倍も大きな反響がありました。寄席でお客さんに大きな拍手をされて「待ってました、国宝!」なんて言われるんです。寄席には、最後を飾る“トリ”の前に、短い演目を披露してトリにつなげる「ひざ前」という役割があります。私がひざ前を務めるときも、軽い演目をやってトリにつなげたいのに、お客さんから「たっぷり(やって)!」と言われて困ることがありますが、喜んでくれるお客さんは多いですね。「噺(はなし)家は世情のあらで飯を食い」という言葉があるように、落語には酒飲みや夫婦喧嘩(げんか)など、様々な人が登場する演目が多いんです。人間国宝になったからと言って、そんな演目をやらないわけではなく、下衆(げす)な話も好んで披露していますね。
◆墨田区名誉区民の選定を受けて
◇さらに、区では昨年9月に雲助師匠を墨田区名誉区民として選定しました。
区長:師匠は区民初の人間国宝認定者ですし、ぜひ名誉区民にとお話をしたらご快諾いただき、区議会で全会一致の同意が得られました。これで3人目の名誉区民となります。1人目は世界のホームラン王である王 貞治氏、2人目は押絵羽子板師の故・西山 幸一郎氏です。
師匠:名誉区民として選定されたことは、大変に栄誉なことで、ありがたいと思いますし、何よりとても嬉しかったですね。今年で77歳になりますが、生まれてから今までずっと本所に住んでいます。私の父は本所の町会長を務めていたこともあり、区に対する思い入れや愛着が、父から子である私にもしっかりと受け継がれていました。だから、名誉区民に選ばれたことを亡き父に知らせたら、とても喜ぶに違いありません。
◆区への期待、伝統文化の継承
◇師匠が区に期待することは何でしょうか?
師匠:落語の演目で舞台になっている場所は、墨田区が一番多いと思います。区内の古い地名もたくさん登場します。その影響で、実は区内在住の落語家が多いんですよ。私が今こうして落語家をしているのは、墨田区に生まれ、子どもの頃から落語に出てくるような人たちに囲まれて育ったことが大いに影響しています。母に連れられて寄席に通っていたこともあって、落語家の“下地”ができていたんですね。墨田区は、私に落語家になるきっかけをくれた、ありがたい土地です。区民の皆さんにも落語を聞いてもらって「落語ってこういうものなんだ」「墨田区にはこういう土壌があるんだ」と知ってもらえれば、こんなにありがたいことはありません。区に根付く落語文化を、ぜひ活(い)かしてもらいたいです。墨田区が「落語のまち」として発展してくれたら、とても素晴らしいですね。
区長:師匠から区と落語のつながりも伺えたので、「落語のまち」として落語の魅力を広く発信していこうと考えています。落語家の皆さんと意見交換をして、まちをより一層明るくしたいですね。お話を伺って、落語をはじめとした芸能、音楽など、区にある文化資源を後世につなげることが、非常に大事だと改めて思いました。区の歴史や観光資源を掘り起こし磨いて、観光客や区民の皆さんに伝えていきたいです。「墨田区総合的芸術祭(仮称)」の来年の開催に向けて、伝統文化や舞台芸術など、いろいろなジャンルがコラボできると良いと思います。
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