《阿部》高畑さんが真剣にアニメに向き合っている姿が目に浮かぶような気がします。
スタジオジブリを創業された宮崎駿さんは日本アニメーション時代に「未来少年コナン」を制作されました。今となっては時代を予言したかのようなストーリーです。1978年にTV公開されましたが、物語は戦争によって大変動が起こった後の2028年の地球を舞台としており、太陽エネルギーの秘密をめぐり少女ラナを助ける少年コナンの冒険です。宮崎駿さんの原点のような作品だと思いますが、日本アニメーションがいまも大切にしている作品ですよね。
《石川》「未来少年コナン」は当社が制作した作品の中でも特別な存在です。また、アニメ業界にとっても宝物のような作品だと考えています。「未来少年コナン」を見たから、アニメに関わりたいという思いを持った方が、今でもたくさんいると聞いています。
宮崎さんのTVシリーズとしては初監督作品ということで、原点と言えるような演出が散りばめられています。物語は普遍的な題材を扱っており、45年前の作品と思えないくらい、現代の我々が見ても違和感がないような新鮮さを持っていますよね。2024年には舞台「未来少年コナン」として現代に甦り、多くのファンにご覧いただけました。
《阿部》多摩丘陵の緑と多摩川など自然に恵まれた多摩市のスタジオで、日本のアニメ界を牽引した独創的なアニメーターが数多く育っていますね。
《石川》現在のアニメ業界の礎を築いたアニメーターが、当社に所属してくれていたというのはありがたいことです。そのような方々がこの多摩の現場でこだわってこだわって、いいアニメを作ろうと頑張ってくれたことは感謝しかありません。
《阿部》本年1月にアニメ化35周年を迎える「ちびまる子ちゃん」との出会いについても教えてください。
《石川》「ちびまる子ちゃん」は私の娘の提案で企画がスタートした作品なのです。父の本橋が私の娘に「学校で何が流行っているの?」と聞いたのですが、その時に出てきたのが「ちびまる子ちゃん」。当社では作ったことのない作風だったこともあり、その場で友達に電話をかけてもらって、人気を確認していたことを今も覚えています。翌日には「これをアニメ化するぞ」と。現場としてはそれまでの「世界名作劇場」と全く作風が異なるものだったので当惑したスタッフもいたそうですが、本橋の「アニメ化する」という強い想いで実現させることができたそうです。
《阿部》実行力のあるお父さんなんですね。
《石川》何事にも積極的に挑戦する人でしたね。
《阿部》その「ちびまる子ちゃん」の時代設定は1970年代。約50年前が時代背景ですが、今見ても古さを全く感じない、どこか近所に「ちびまる子ちゃん」がいるような、そんな気がするアニメです。
《石川》原作があるので時代設定は変えることができないのですが、私は昭和のあの時代を描くことがとても大事だと思っています。「昭和にはこんなことがあったんだよ」ということを伝えることもできますから。
「お友達を大事にしよう」「家族を大事にしよう」というようなメッセージが「ちびまる子ちゃん」には含まれています。
《阿部》今の子どもたちが悩んだりつまずいたりすることと同じことを、昭和の世界で生活しているまるちゃんも悩んだりつまずいたりしています。
《石川》「世界名作劇場」もそうなのですが、子どもの心の根本的な部分は今も昔も変わらないと思っています。まるちゃんが悩むようなことは今の子どもの悩みでもあります。アニメを通して「同じ悩みを抱えている人がいる」と安心することができたり、解決のきっかけとなったりするようなことができたらいいな、と思っています。
あとは「家族のだんらん」ですね。3世代で暮らしている「ちびまる子ちゃん」から、家族の大切さを学んでくれたら嬉しいな、と。
《阿部》日本アニメーションの最寄り駅でもある聖蹟桜ヶ丘駅ですが、今年の3月で開業100周年を迎えます。その聖蹟桜ヶ丘で開催している「ラスカル子ども映画祭」も日本アニメーションの数々の名作上映の他、海外アニメの上映なども定着してきましたね。今年も2月に開催されます。毎回、多くの子どもが来ています。
《石川》多摩市と連携している取り組みとして、「ラスカル子ども映画祭」「聖蹟桜ヶ丘まち歩き」「ラスカルデザインマンホール」などがあります。多くのことに取り組むことができているのは、当社としても喜ばしいことだと思っています。地域と連携してアニメを皆さんにお伝えすることはとても大切な機会です。子どもたちにどのようにアニメを鑑賞して欲しいか、どのように子どもの心をアニメを通して育んでいくか、ということを皆さんに伝えていきたいです。そのために、地域に根付いた取り組みに協力できることは、私たちにとっても嬉しい事です。今後も、多摩市と一緒に取り組みたいと思っています。
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