昨年、パリ2024パラリンピックの女子走り幅跳びで5位に入賞したパラ陸上選手の髙桑早生さん。困難を乗り越え挑戦を続ける髙桑さんと区長が新宿の魅力やスポーツの力について語り合いました。
■なじみのまち・新宿と「聖地」国立競技場
区長:4大会連続でパラリンピックに出場された髙桑さんは、新宿区とは小さいころから縁が深かったそうですね。
髙桑:私は埼玉県で生まれ育ったのですが、父が新宿区の出身で祖父母の家があったので、子どものころからよく遊びに来ていました。毎年お正月は祖父母の家でお雑煮を食べながらゆっくり過ごすのが定番でしたね。氏神様に初詣に行ったり、祖母が好きな百貨店で一緒に買い物したり。新宿は楽しい思い出が詰まったまちです。
区長:新宿区が帰省をする故郷のような場所だったわけですね。現在は新宿区にお住まいということで、さらに関わりが深くなりましたね。
髙桑:去年、パリ2024パラリンピックに出場するにあたって近所の神社でお祓(はら)いをさせていただきました。小さいころからお参りしていたので濃いパワーがもらえる気がして。
区長:きっとご利益があったのでしょうね。新宿区に住んでみてどんなところに良さを感じますか。
髙桑:さまざまな地域の大会に出場するので、新宿区はとにかく移動が便利だなと感じます。その一方、公園で子どもたちが遊んでいたりお祭りの時にはみんなでお神輿(みこし)を担いでいたり、人々の暮らしがしっかり根付いているので住み心地もいいですね。
区長:髙桑さんがお住まいの辺りは神田川や公園があって、都会の利便性と自然環境が共存するエリアですね。区内で特にお好きな場所はどこですか。
髙桑:やはり東京2020パラリンピックでも競技をした国立競技場です。特別なエネルギーを持った場所というか、アスリートだけでなく誰もがあの場所に来ると高揚感を感じるのではないかと思います。
区長:国立競技場はまさに区が誇るスポーツの聖地です。新宿区を拠点とするサッカークラブのクリアソン新宿は、昨年国立競技場で開催された試合でJFL(日本フットボールリーグ)の最多入場者数を更新しました。外周は競技やイベントがない時でも入れますし、ご近所の方にとってはとてもいい散歩コースですね。
■陸上競技と出会い、新たな夢の舞台へ
区長:髙桑さんは小さいころから運動が得意だったのですか。
髙桑:両親がテニスをしていた影響で小・中学生のころはテニスに夢中でした。13歳の時に骨肉腫が見つかって左足の膝下を切断することになり、義足になったことから、高校では何か新しいことに挑戦しようと思って陸上競技を始めました。それまでパラスポーツに触れることはあまりありませんでしたが、義足で陸上競技をしている方を見る機会があって、私もやってみたいと思ったのがきっかけです。高校1年生だった2008年に北京パラリンピックが開催されて、テレビの映像にかじりつきながら、「陸上を突き詰めていった先にはこういう舞台があるんだ」と夢を膨らませていました。
区長:大変な思いをされて、そこから新たな夢に向かって挑戦されたのは本当にすごいことですね。
髙桑:大学2年生の時にロンドンパラリンピックに初出場できたのですが、この時に味わった感動が忘れられず、その後の競技生活の支えになっています。会場の雰囲気や観客の声援の音圧が他の大会とは全く違うんです。
区長:東京2020オリンピックはコロナ禍での開催で無観客でしたが、新宿区の子どもたちはパラリンピックだけは何とか観覧することができました。親御さんたちも「少し心配したけど、とても喜んで帰ってきたので行かせてよかった」とおっしゃっていました。パラリンピックは、子どもたちにとっても勇気や感動が得られる特別な場なのだと改めて感じましたね。
髙桑:東京大会が1年遅れて開催されたことでパリ2024パラリンピックの開催が3年後になり、準備期間が短いことから、実は気持ちが折れかけたんです。家族からの助言もあって一度陸上から距離を置いて自分を見つめ直したのですが、「やっぱり私は陸上が好きだ。やめるという選択はない」と思うようになりました。
区長:一度、客観視できたのがよかったのでしょうね。私は時々、全く違う業種の方たちとお会いして自分の視野を広げるようにしています。そうすると「自分はこんなことで悩んでいたのか」という気付きがあるんです。
■スポーツを力に!次の世代につなぐ思い
区長:今は、次の目標に向けて動き出されていると思いますが、今年はどんな年にしたいですか。
髙桑:今年は、2026年に名古屋で開催予定の「アジアパラ競技大会」でのメダル獲得と自己ベスト更新に挑む年になります。昨年はコンディションがよかったので自信があったのですが、自己ベスト更新には届きませんでした。でも、その自信が今も続いているので、気持ちを継続して結果を出したいですね。
区長:意欲を持ち続けるのは大切ですよね。練習や大会の様子をSNSでも発信されていますが、パラスポーツの魅力を多くの人に知ってもらいたいという思いも強いのですね。
髙桑:私たちの次の世代の選手に出てきてほしいので、若い人や子どもたちも含めてパラスポーツの裾野を広げることが大切だと思っています。また、今年は世界陸上などのスポーツイベントも目白押しですので、子どもたちには特にスポーツに触れる時間を増やしてもらえたらと思います。
区長:そうですね。区民の皆さんがスポーツからパワーをもらえる環境を整えて、新宿のまちを元気にしていきたいと考えています。髙桑さんには、昨年、特別区職員の新人研修でも講義していただき、「困難があっても、切り替える・別の手段を見つけることで立ち直ることができる」というお話をいただきました。今、あらゆる業種で働き手が集まらない・やめてしまう現状があるので、髙桑さんから教わった考え方をしてもらえるような環境づくりやメッセージの発信をしていきたいと思います。
■子どもたちへのメッセージ
スポーツイベントを通して、たくさんスポーツに触れてください!
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