■区の図書館では、障害者の読書活動支援として図書館資料を読むことが困難な方に向けた、デジタル録音図書(DAISY※資料)や対面朗読などのサービスを提供しています。
このDAISY資料の製作や対面朗読を担っているのが、音訳者の養成講座を修了した図書館音訳等ボランティアの方々です。活字の印刷物だけではなく、写真・絵・図などもボランティアの言葉で音訳し、読み手へ伝えます。
※Digital Accessible Information System(アクセシブルな情報システム)の略称。障害により印刷物を読むことが困難な方のための、CDに録音された資料。
■デジタル録音図書(DAISY資料)~本間瑩子
プロフィール:本間瑩子(ほんま・えいこ)
「杉並朗読ボランティアの会」の平成元年結成時より、音訳等ボランティアとして活動。70歳になるまでの約25年間同会の会長を務めた。現在も月刊誌の音訳作業、中央図書館における対面朗読に励んでいる。
【CASE1】本間さんの場合
Q:音訳等ボランティアを始めた経緯を教えてください。
私は学生時代に演劇をやっていて読書も好きだったので、初めて朗読のボランティアの存在を知ったときは、すぐに興味が湧きました。そこで、基礎を学ぶためにカルチャーセンターで講座を受け、その後図書館で実践に入りました。平成元年当時、地元の杉並区で「杉並朗読ボランティアの会」(以下、杉朗会)を結成することになり、活動を始めてから今年で35年になります。
Q:音訳作業に当たることになったきっかけは何ですか?
杉朗会の結成後、図書館から「録音図書を作ってほしい」と依頼されました。最初に取り組んだのは文芸誌。当時はカセットテープに声を吹き込む形の録音作業で、少し修正するのにもとても手間がかかりました。アナログ作業の時期が長かったのですが、平成19年に思い切ってデジタル化しようと決めて、私自身がまず録音ソフトを使っての作業を試してみたんです。アナログ作業に慣れていたので最初は仲間達もためらっていましたが、最終的にはみんなが理解して取り組んでくれたおかげで、今は完全にデジタルでの作業に切り替わり、データのファイル送信も取り入れてずいぶん効率化できました。世代の異なる仲間同士でそれぞれが知識・知恵を出し合い、理解し合うからこそ、活動を続けていられると感じています。
Q:現在、音訳の活動としてどのような取り組みをされていますか?
杉朗会で担当しているのは、月刊の論壇誌の音訳です。毎月最新号を、広告も含めて丸ごと約250ページ分、分担して音訳しています。それを翌月の発売日には図書館に納品するというスケジュール。締め切りがあるので大変ではありますが、自分の知らない世界を学べて向上心が刺激され、うれしさも大きいです。中でも難しいのは、論壇誌なので図表が多いこと。視覚障害のある方が音で聞いて理解できるように図・グラフを言葉で説明するのは、なかなか苦戦しますね。内容が論壇なので、感情を出さないようにしつつ、聞いている人が楽しめる読み方にするための工夫も必要です。
Q:活動の中で特に印象深く記憶に残っている出来事はありますか?
長く続けてきた中で、特に達成感を感じた活動があります。それは平成26年にスタートした、ヤマザキマリさん、とり・みきさん共著の劇画「プリニウス」の音訳。劇画で、なおかつ古代ローマの物語。原稿を作るにはきちんと下調べをして、知識を入れた上で取りかからなければなりません。どんな表現にすれば最適な形で劇画が伝わるのか、音訳の校正担当者と何度もやりとりをして修正を繰り返しながら、丁寧に推敲(すいこう)していきました。1話40分ほどの音訳を仕上げるのに、毎回3~4日かかっていて、初回から最終話まで10年かけてやり遂げたときは、とても感慨深かったです。
Q:これまでの活動を振り返り、この活動の魅力は何だと感じますか?
誰のためでもない、自分自身の成長や学び、活力につながるのが、この活動の最大の魅力だと思っています。今、音訳等ボランティアの人数は減ってきており、私も元気なうちは続けていきたいと考えていますが、ぜひ次の世代が育っていってほしいと強く願っています。
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