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絵手紙のひと 小池邦夫のうちあけ話(16)

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東京都狛江市

◆東日本大震災 魂を揺さぶられた被災地との交流
《東日本大震災が起きた2011年3月11日の4日後、被災地の通信講座の受講生らに絵手紙を送った》
津波被害の甚大さにうろたえながら、福島、宮城、岩手の19人に出した。届くかどうかわからないけど、巻紙で一人ひとりに呼びかけた。
次々に返信が届いた。ローソクの絵を添え、「一昨日までローソクの灯りで暮らしました……はげましのおことばに勇気百倍です」。太い筆文字で「元気です」や「生きてまーす」とのはがきも。
驚いたね。暗い文面を予想していたけど、未曽有の大惨事に打ちのめされながらも前向きに生きる力強さにあふれている。今回のように魂が揺さぶられた絵手紙は初めてだったな。絵手紙は人の生きる支えにもなると感じた。だから僕はもっとかきたくなった。

《絵手紙友の会の名簿を基に5月初めまでに295通を送り、宮城県石巻市の教室も訪問した》
200通の返信があった。返信の手紙にこれほど幸せを感じたことはなかったね。一つひとつがみんないい。極限状態の中で絞り出された言葉や絵が僕の心を射抜いた。
石巻を訪ねたのは、教室をやっている人から、生徒たちがみんな元気がない、との手紙をもらったから。集会所に14人の女性が来ていた。
最初は表情も堅くて話は弾まなかった。最後に、用意してきた5センチ前後の大きさの俑(よう)(人や動物をかたどった古代中国の副葬品)を見せた。龍、犬、蛙……。みんな笑みを浮かべ、触りながら「絵を描いてもいいですか」。こんなちっぽけなものに、人の心をほぐす力が秘められている。僕が好きな「古拙(こせつ)」に通じるね。

《手紙の交流を11年7月、「東日本大震災 被災地との絵手紙」(中央公論新社)として出版した》
被災地で苦しんでいる人たちが、絵手紙で裸の自分をさらし、元気を取り戻していく。手でかくことで人の心に灯りがともるんだ――。絵手紙の底力を再認識しました。
震災後、僕はよくこう手紙にかきます。「一杯の水で生き返るように一通の手紙で生き返る」と。

◆次回から2回に分けて、地元の狛江市と絵手紙の関わりを。
(聞き手 元新聞記者・佐藤清孝)

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