◆「素敵な場所」の魅力伝え続け三十数年
◇竹ジイ
秋晴れの9月24日。「狛江水辺の楽校(がっこう)」の中心になっているクルミ村の広場に、狛江第三小学校の1年生が整列した。
「私、竹ジイです」
子どもたちの前で、指導にあたる楽校の市民事務局長・竹本久志さん(72)があいさつした。「竹ジイ」は3~4年前から使っている愛称だ。
この日は生活科の授業で、毎年恒例の虫捕りの体験。楽校の環境学習事業として支援し、4クラス107人が参加した。
広場で長いミミズを捕まえた男子が、虫が嫌いな女子たちが悲鳴を上げる中で、早速尋ねる。「ねえ、竹ジイ。これ何?」竹本さんは「楽校にはこういうミミズもモグラもいます」と答え、たちまち人気者に。
虫探しの場所は土手とクルミ村周辺。楽校のスタッフ3人も、クラスごとに付き添った。
竹本さんの周りには子どもが集まる。エンマコオロギを見つけた子に「これはメスだよ。どうしてわかるか。産卵管があるから」と説明する。
竹本さんが楽校の前身の森と出合ったのは1987年ごろ。「川や緑があって子育てにはいい環境よ」。狛江市にいた姉夫婦の誘いで世田谷区から移った。妻と2人の幼子の4人で、日課の多摩川散策の途中、「とても素敵な場所」に遭遇する。
緑の土手に荻の野原、小川や池……。郷里の広島県府中市の田舎に似ていた。小学校の行き帰りに田んぼのカエルやトンボ、ザリガニなどを捕まえて「よく道草していた」光景が浮かんだ。
家族で森を「冒険林(ぼうけんばやし)」と名付け、生き物たちの観察に夢中になった。95年にはヘイケボタルを見つけ、ホタルの復活に向け湧き水の清掃を始める。家族で2年近く続けた後、市の広報紙でボランティアを募り、市民を巻き込んでいく。活動は毎週日曜。開校して23年たつ今も、環境保全清掃として取り組む楽校の要(かなめ)だ。
三小の虫捕り体験で、竹本さんはクビキリギスやショウリョウバッタを観察ケースに入れ、子どもたちにさりげなく命の大切さを説く。「多くの虫は1年しか生きられない。この子たちも10月いっぱいでいなくなるよ」
子どもたちは虫の小さな命に触れ、笑顔で楽校を後にした。学年主任の佐藤友佳先生がいう。「竹ジイは子どもたちの憧れです。狛江だからこそ、こういう授業ができる。とてもありがたい」
「素敵な場所」と出合って40年近い。竹本さんは「楽校は大人にとってもオモチャ箱なんです」。
佐藤清孝(元新聞記者)
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