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絵手紙のひと 小池邦夫のうちあけ話(22)

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東京都狛江市

◆武者小路実篤 迷った時に立ち戻る“心の師”
僕が最も影響を受けた人は、実は小説家の武者小路実篤さん(1885~1976)なんです。生涯の「心の師」といえます。

《高校の書道の教科書に武者小路さんの書が載っており、教科書の手本とは全く違う字に惹かれた》
東京学芸大学書道科に進んだけど臨書の授業にうんざりしていた。国会図書館に通い武者小路さんの本を片っ端から読破した。500冊ぐらいかな。作品はわかりやすい言葉で書いてあり、希望を与えてくれる。元気が出る。小説に出てくる好きな言葉をノートにメモしたよ。
僕が絵を描けるようになったのは、この時に手にした本のお陰なんです。「畫(え)をかく喜び」(57年発行)。40歳すぎから絵を描き始めた武者小路さんが、71歳の時に出版した。僕と同じように、絵が苦手だったことに勇気づけられたね。
ポイントは写生。武者小路さんは馬鈴薯(ばれいしょ)を何度も何度も写生した。
「目の前にある物を、毎日根気よく、くりかえしくりかえし、かいている」「一つのものの写生がほんとうにできれば、どんなものでも、かこうと思えば、かける」――。こうしたヒントをもらい、どんなに励まされたかわからないよ。
身近なものを見たままに描く。それに、誰にでも読める字で、「仲よき事は美しき哉(かな)」とか明るく元気づける言葉を添えている。そうか、こうやればいいのか! 絵と文が響き合う絵手紙につながった。

《「まだだ まだだ 今に 今に」と希望を持ち続けた武者小路さんの向上心に触発されてきた》
武者小路さんは90歳まで50年間、無心に筆を握った。描かなかったのは病気で寝込んだ時などだけ。僕も、元日から1日も休まず仕事場に出かけ、手紙書きを続けてきました。
武者小路さんを「あのカボチャのおじいちゃんか」と日曜画家のようにみる人がいるけど、間違いだと思う。だって、日本を代表する画家の梅原龍三郎さんも、武者小路さんの絵をほめているんですよ。特に、墨の色は年を重ねるほど輝きを増している。毎日、鍬(くわ)で土を掘るように自分を掘っていったからだろうね。
僕は行き詰ったり迷ったりした時には、武者小路さんに戻る。画集を見たり模写したりしています。

◆次回は妻・恭子との絵手紙がつなぐ夫婦愛についてお話します。
(聞き手 元新聞記者・佐藤清孝)

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