○居場所があることが安心感につながっていく
石阪:
昨年5月に「町田市子どもにやさしいまち条例」が、10月に「町田市障がい者差別をなくし誰もがともに生きる社会づくり条例」が施行されました。簡単な言葉で説明すれば、これらの条例は、子どもや障がいのある方々の居場所を大切にする条例です。居場所とは心のよりどころになる場所で、“みんなにやさしいまち”とはだれにとっても居場所があるまちだといえるでしょう。私が子どものときに夢見ていたのは、自由に空を飛ぶこと。なににも縛られたくなかったし、とにかく自由に憧れていたんです。それは今でも変わらず、人は自由に生きることが最も優先されるべきだと思っています。2つの条例の究極の目的は、子どもや障がいのある方が、自由に生きるための選択肢をたくさん用意すること。いろいろなタイプの居場所、人と出会える機会、活躍できるチャンスが豊富にあれば、自分にぴったりなものが見つかるのではないでしょうか。
Leina:
確かに、私にとって「ばあん」は大切な居場所でした。デビュー曲は「ばあん」で作った作品です。そういえば、「ばあん」には子どもによる委員会があって、子どもたちが自らお祭りを企画していました。ゲームのアイデアを出したり、工夫を凝らしたり、みんな輝いていましたね。
石阪:
任せると力を発揮してくれますよね。2023年度から、町田市では「まちだ若者大作戦」という事業を実施しています。子どもや若者の「やりたいこと」を市が後押しする事業で、場所や補助金は提供するし、必要ならお手伝いもするけれど、余計な口出しはしませんというのが基本スタンスです。高校生世代から25歳までの若者が町田薬師池公園四季彩の杜西園の展望広場で野外音楽フェスを開催して大盛況でした。広報まちだの特集号を若者の手で作る「広報まちだジャック計画」も実施しました。記事のアイデア出しから、取材、原稿執筆、デザインまですべて任せて大丈夫なのか不安がありましたが、ふたを開けてみれば若い人たちの自主性や感性が発揮された、とても面白い広報紙が完成しました。
玉置:
私の居場所になったのは、高校の友人たちとの関係です。中学生までは引っ込み思案で、自分の障がいをオープンにすることに抵抗がありました。でも高校に入って気を使いすぎずに付き合える人間関係をつくれて、そこが心のよりどころになりました。例えば、今までだったら諦めていた階段しかない2階にあるお店でも、「ちょっとお願い」とみんなに支えてもらって上がり、カフェを楽しんだり、頼れる友達がいることで世界が広がった感じがします。
石阪:
そう、居場所の在り方って1つではないですよね。場所だけでなく、人との関係であることも多い。だからこそ人と出会える機会も含めて、できるだけたくさんの選択肢があることが大切なのだと思います。
○理想のまちは、なんとかなるまち!?
石阪:
今回の座談会のテーマは、“だれにとってもやさしいまち”“だれもが暮らしやすいまち”です。玉置さんとLeinaさんにとって、それはどのようなまちですか。
玉置:
「なにかあってもなんとかなる」と思えるまちです。障がいがある人は外出時に「困ったときにどうしよう」「助けてくれる人がいるか不安」と心配しがちなのですが、なにかあったら助けてくれる人がいると思える環境があるだけで大きな安心につながります。以前の私は人に頼ることが苦手で、困ってもだれかに手助けをお願いできなくて車椅子で外出することがほとんどできませんでした。でも勇気を持って一歩踏み出したら階段や段差で助けてくれる人がいて、そのことで前向きな気持ちになれました。
Leina:
すべての人が生きやすさを感じるまちではないかと思います。マイノリティーだったり、ひとり親で大変だったり、経済的な理由でいろいろ我慢しなければならないなど、生きにくさを抱えている人は少なくないですよね。では、どんな社会ならそういう人たちが生きやすさを感じられるか考えたら、それは一人ひとりの個性が認められて、尊重される社会ではないでしょうか。漠然とした答えだけれど、だれもが未来に希望や可能性を感じて、やりたいことに挑戦できるまちであればいいなと思います。
石阪:
町田がもっといいまちであるために、行政や社会にやってほしいことや望むことはありますか?若い人の考えをぜひ聞かせてください。
Leina:
育った環境とか、障がいのあるなしにかかわらず、町田で暮らすすべての子どもが、いろいろなことに挑戦できる、なんでもやりたいことにチャレンジできるまちになればいいなと思います。困難を抱えているから我慢するとか、諦めるのではなくて、だれもがなんでもチャレンジできる環境があることは、生きやすさにもつながるのではないでしょうか。
玉置:
障がいのある人に対して、柔軟な対応ができるまちであればいいなと思います。障がい者といっても身体の状態や環境は人それぞれで、ニーズにも違いがあります。障がい者としてひとくくりで見るのではなくて、一人の人として関わるというスタンスって大切だと感じています。それから、この人は障がい者というフィルターがかかってしまうと、障がい者としてしか見られなくなってしまうこともありますよね。その人の中で障がいは一部分でしかないから、他の部分も見てほしいというのは常々思っています。
石阪:
お二人の話を聞いていて思うのは、住みやすいまちであるために“気付く”努力を怠ってはいけないということです。生きづらさを抱えている子や、障がいがある人が目の前にいたら、なにに困っているのか気付くこと。そして気付いたら見過ごさずに、自分がやれることを探す。社会にとっても、行政にとってもそれはとても重要だと思いました。
○暮らしやすい社会のために自分だからできることがある
石阪:
先ほどは社会や行政に望むことを伺いましたが、では、理想のまちや社会を実現するために、自分たちができると思うことや、やっていきたいことはありますか。
Leina:
選挙に行くことは私たちができる大きなこと。だから、選挙の日にはSNSで「今日は選挙に行こう!」と呼び掛けているんです。私は音楽を通してさまざまなメッセージや思いを表現してきました。それはこれからも続きます。もっと勉強を重ねて、政治とか社会に関心が向くような発信をしたり、世の中がいい方向に動くように楽曲を含めて言葉にしていくことが私にできることだと思います。
玉置:
SNSでの発信やモデル活動などで、障がい当事者である私が積極的に表に出ていくことが私にできることなので、それを続けて、見逃されがちな当事者の声を拾ってもらえる機会を増やしていきたいですね。自分の声だけでなく、当事者の方がどんな思いを持っているのか、一人ひとりに寄り添って聞いたうえで、それらの声も発信できたらいいなと考えています。
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