12月4〜10日は人権週間です。
人権問題は、自分には関係ないことと思っていませんか。人権は、人間らしく生きるために誰もが持っている権利です。知らないことで、誰かの人権を傷つけてしまうことがあります。
今号は、12月4日に開催の人権週間区民のつどい(本紙3面参照)に出演する全盲のシンガー・ソングライター、大石亜矢子さんと一緒に、人権問題について考えます。
■区職員から寄せられた人権にまつわるエピソード
「人を元気にする、人のチカラ」をテーマに、区職員から人権にまつわるエピソードを募り、大石亜矢子さんにコメントを寄せていただきました。
皆さんも、誰かのことではなく、自分のこととして考えてみてください。
■シンガー・ソングライター
大石亜矢子さん
静岡県沼津市出身で、武蔵野音楽大学声楽科卒業。ソロによる歌唱の他、ピアノの弾き語りによる演奏活動を行う。夫で全盲の弁護士である大胡田誠さんと共に、全盲夫婦によるトーク and コンサートを各地で開催。
【人権エピソード1】「心の窓を開ける声かけ」
認知症のかたの利用が多い施設。ある夏の午後、スタッフの勝手な思い込みが覆される出来事がありました。
1つのテーブルに5人、ぼんやりとお茶をすすっています。ある利用者の家族が、何げなく見回し、「こんにちは! 外は、猛烈に暑いんですよ!」と、話しかけたのです。
私は驚きました。全員がパッと目を輝かせて反応し、「まあ、そうなの」と、うなずきうれしそうな表情を浮かべたのです。こんなに明るい表情は見たことがありません。私は、利用者さんが認知症だと思い込み過ぎて、人としての対等なコミュニケーションをおろそかにしていたと猛反省しました。声かけの大切さを再認識し、人生を豊かにする深い学びが得られました。
◇大石さんコメント
私たちも「子どもだからこう、病気だからこう」という、思い込みの中で生きています。だけど、どういう形であっても、人として対等に接することが大切です。声の力だったり、思い出の力だったりで、心の窓を開けることができます。
◇まとめ
ステレオタイプにレッテルを貼る視野の狭さが、敬意の欠如につながるのかもしれません。
【人権エピソード2】「ランドセルって誰のもの?」
保育園の年長クラス。ランドセルを買ってもらった子どもたちがうれしそう。ある保護者が、「先生、私は人と同じが嫌で布のリュック型がおしゃれだと思うのに、うちの子Aはランドセルがいいってきかないの。どう思う?」
Aちゃんは「青いランドセルを買ってもらうんだ」と、前からとても楽しみにしていました。
先生は「6年間使うのだから、本人が好きなのにしたら?」と助言し、Aちゃんは青いランドセルを買ってもらえました。
そして「ランドセルはAちゃんのもの」になったのです。
◇大石さんコメント
Aちゃん、本当によかったですね。「青いランドセルが欲しかったのに」という気持ちを背負って6年間小学校に通わなくてよかったですよ。親御さんが入学するわけではないですからね。一人一人の思いを大切にできるのは素晴らしいと思います。
◇まとめ
伝統的なランドセルであれ、個性的なリュックであれ、選択は子ども自身の手に委ねられることが、自尊心を育むのかもしれません。
【人権エピソード3】「高架下のエンジェル」
前日の仕事でミス発覚! 大至急対応せねばと、重圧感でいっぱいの冬の朝。家を出てすぐの角で、周りに人がいればはっきり聞こえるような大きなため息をついてしまいました。
すると、高架下からやわらかく澄んだ声が。
「いってらっしゃい」
はっとして探しても、姿はなし。後日、高架下に寝泊まりしている人がいて、周辺の掃除をされていると知りました。今も通りかかると、10年前の温かい気持ちがよみがえります。
◇大石さんコメント
突然声をかけられて驚いたと思いますが、温かい気持ちをもらったのですね。私も道で三角コーンにぶつかった時に「大丈夫?」と声をかけてくれた人がいます。一瞬恥ずかしかったですが、見守ってくれる人がいたことにホッとしました。大切に思ってくれている気持ちには、人を元気にする力があると思います。
◇まとめ
助ける側と助けられる側は、必ずしも固定化していません。みんなで支え合って暮らせる社会にしたいですね。
【人権エピソード4】「近くに映る虹色」
幼い頃の弟は、女の子とひたすら人形遊びをしていて不思議でした。思春期のある日、弟が長い髪をきれいにセットしお化粧しました。低い声を出さないなど、私たちが驚く行動もし始めました。「ほんの気まぐれだろう、元に戻ってほしい」と考えてしまう私と家族。自分には偏見などないと思っていたのに、いざ自分の身内となると、否定的な感情が湧き上がってしまう。
最近、性的マイノリティーに関する職場研修を受講し、弟を傷つけていた自分の態度と、自分にも何かしらのマイノリティー性があることに気付きました。生きづらい要因は、身近な人からの否定にあるのかもしれません。
今度弟に会ったら、「そのままでいい」と言ってあげたい。
◇大石さんコメント
身近な人の支えがあれば、どんなことにでも立ち向かえることでしょう。弟さんも苦しく、葛藤もあったと思いますが、家族は自分にとっての一番小さな社会になっていくので、そこから学べることはたくさんあると、自分と重ねても、そう思います。
◇まとめ
それまでの態度を悔い、理解を示す謙虚な姿勢に敬意を表すとともに、誰もがありのままで尊重される世界になることを心から願います。
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