■馬と出会って、強くなれた
東京2020・パリ2024パラリンピックと2大会連続でパラ馬術に出場した吉越奏詞選手。脳性まひにより障害がある吉越選手が、どのように馬と出会い、パラリンピック出場という大きな夢を実現したのかを紹介します。
■プロフィール
よしごえ そうし。パラ馬術(グレードII)選手。目黒区で生まれ育つ。先天性の脳性まひにより右半身と下肢に障害がある。世界の馬術競技会などでも上位入賞するなど、パラ馬術界で期待の若手選手。東京2020パラリンピックはパートナー馬「ハッシュタグ」、パリ2024パラリンピックでは「ジャビーロ」に騎乗し、2大会連続で出場。
■パラ馬術をご存じですか?
馬術はオリンピック・パラリンピックで、唯一動物と一緒に競技をする種目。馬場の中で、常歩(なみあし)・速歩(はやあし)・駈歩(かけあし)の3歩法で図形を描いたり、ステップを踏んだりして、正確さや美しさ、姿勢などを競う。採点対象は選手ではなく、馬のパフォーマンスを最大5人の審判員が各10点満点で評価し、順位を決める。
パラ馬術は、障害に応じて、グレードと呼ばれる最大5クラスに分かれている。障害により、片腕に障害のある場合はバー型の手綱、脚に障害がある場合はゴムなどであぶみに靴を固定するなど、改良した特殊馬具の使用が認められている。
■吉越選手history(ヒストリー)
◇平成12年8月 目黒区で誕生
重度の脳性まひで生まれ、将来歩行は難しいかもしれないと医師から告げられる。
◇1歳頃 初めて馬に乗る
碑文谷公園のポニー教室(本紙3面参照)に通う兄の迎えについて行った際、馬に興味を示す。その様子を見た職員から「小さくても、障害があっても乗れますよ」と声をかけられ、引き馬で乗馬を初体験。
「馬に乗せてもらったら本当に喜んで。私もとてもうれしかったですね」(母)
◇2歳頃 ポニー療育で馬と触れ合う
すくすくのびのび園(本紙3面参照)に入園し、週1回のポニー療育で馬との触れ合いが始まる。
「海外の試合に行って、小さい子どもが馬に乗れる施設があると言うと驚かれます」(母)
◇小学生 ポニー教室に週6日通う
碑小学校に入学。碑文谷公園のポニー教室に参加し、放課後はすぐに公園へ。休業日以外はほぼ毎日馬と過ごす。
「ゲームよりもテーマパークよりも、馬が好きでした」
◇中学2年生 パラリンピック出場を決意
第七中学校に入学後も、ポニー教室を続ける。中学2年生の時、オリンピック・パラリンピックの東京開催が決定したニュースを見た瞬間、出場を決意。本格的にパラ馬術を始める。
「朝起きてきたと思ったら、いきなり「パラリンピックに出るから」と言うので本当に驚きました」(母)
◇高校生 学業と練習に明け暮れる
日の出学園高校(現・目黒日本大学高等学校)スポーツコースに入学し、週末は所属する乗馬クラブで練習。高校3年生で世界馬術選手権6位入賞。その後も国内外の大会に出場し、上位入賞を果たす。
◇大学生 コロナ禍で出場を目指す
日本体育大学に進学。東京2020パラリンピックを目前に、新型コロナウイルス感染症が世界中で拡大。大学にも大会にも行けない時期が続く中、唯一エントリーできた海外の大会でパラリンピック出場権を獲得。
「講義に出られないことも多かったので、友人にノートやプリントを見せてもらって、勉強も頑張りました」
◇21歳 東京2020パラリンピックに初出場
厳しい行動制限を経て、馬事公苑で行われたパラリンピックに出場。無観客の中、パートナー馬「ハッシュタグ」と挑んだ結果、10位に。
◇23歳 アスリート採用で就職
練習と海外を含めた大会出場を続けていくため、アスリート社員として株式会社小泉に就職。
◇24歳 パリ2024パラリンピックに出場
2024年6月、日本代表として2度目のパラリンピック出場が決定。会場となったベルサイユ宮殿で、パートナー馬「ジャビーロ」と共に、9位の結果を収める。
「ジャビーロに乗って見たベルサイユ宮殿は壮大で、圧倒的な迫力でした」
ロサンゼルス2028パラリンピックは28歳。3度目の出場を目指す
■ポニーに乗れたことが奏詞くんとお母さんの自信につながったと思います
目黒区児童発達支援センターすくすくのびのび園 公認心理師 佐藤さん
当園では、馬に乗ることで体幹を鍛えるだけでなく、馬と触れ合うことによる情操教育も期待できることから、ポニーによる療育も行っています。
奏詞くんが2歳の頃、お母さんからポニー療育を受けさせたいと相談がありました。しかし、当時は4歳以上が対象でした。一度はお断りしたのですが、お母さんは奏詞くんのために本当に必死で、私たちも応えたいという気持ちから、1・2歳クラスもポニー療育を始めることにしました。
馬に乗れるようになると自信がついて、職員やお友達とも上手に関われるようになり、他の運動プログラムにも積極的に参加するようになりました。お母さんも自信が持てるようになったんじゃないかと思います。
ここでの馬との触れ合いが、パラリンピック出場につながったというのは本当に素晴らしいですし、私も励みになります。奏詞くんの活躍を、すくすくのびのび園のみんなで応援しています。
◇目黒区児童発達支援センターすくすくのびのび園
発達の遅れまたは遅れが予想される1歳から就学前までの子どもを対象に、集団の場での早期療育で心身の発達を促しながら、日常生活の能力を開発し、予測される障害を可能な限り軽減させるための療育を実施しています。また、発達に関する相談事業ひまわりも行っています。
場所:中央町2-23-24
問合せ:【電話】3714-1617【FAX】3794-4344
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