Jichi Medical University Hospital
■おうちで役立つ感染対策 ~冬の感染性胃腸炎対策~
自治医科大学附属病院 感染制御部長・教授 笹原鉄平
◆冬に流行する感染性胃腸炎
冬に流行しやすい感染症の一つに「感染性胃腸炎」があります。感染性胃腸炎(以下、胃腸炎)は、腹痛・下痢、吐き気や嘔吐(おうと)などを主な症状とする感染症の総称です。胃腸炎を起こすウイルスには特効薬がないため、感染した場合は安静にして治るのを待つしかありません。自然に良くなるとはいえ、例えばノロウイルス胃腸炎では大人でもキツい症状が出ますし、赤ちゃんや高齢者では命に関わるほど重症化することもあります。
このコーナーでは、筆者自身が日常生活で胃腸炎(とくにノロウイルス胃腸炎)に対して気を付けているポイントを紹介します。なお、家庭での感染対策については研究が十分行われておらず、科学的根拠が確立していません。専門家としての筆者の経験に基づく私見ですので、ご理解ください。
◆感染性胃腸炎予防の原則
胃腸炎は、原因となるウイルスが口から消化管内に侵入することにより発生するため、予防の原則は原因ウイルスが口に入らないようにすることです。では、具体的にどう気を付ければ良いでしょうか。最初のステップは、身の回りで胃腸炎が流行しているかを知ることです。感染症の流行状況は県のホームページ(【URL】https://www.pref.tochigi.lg.jp/e60/tidctop.html)から確認できます。流行している時期にのみ集中的に気を付ける、というスタンスでよいと思います。
◆危険なのは生ガキだけじゃない!
胃腸炎の原因の一つノロウイルスは、二枚貝(牡蠣(かき)が有名)に濃縮されて存在します。加熱すれば感染性がなくなるため、ノロウイルスのいない環境で養殖した「ノロウイルスフリー」の牡蠣以外は生食せず、加熱してから食べるようにします。また、感染者の手指を介してウイルスが食品に付着するケース(食品の2次汚染)もあります。刻み海苔や職場の缶入りクッキーによる集団感染も発生しています。心配な方は、胃腸炎の流行時期には不特定多数が触れる食べ物を避け、外食などでも加熱されて提供されるものを食べるようにしてはいかがでしょうか。
◆見えないウイルスに要注意
最近は、便座クリーナーや「フタをしめて流しましょう」という表示が設置されたりと、トイレの衛生管理の意識が向上しています。しかし、リスクは他にも隠れています。排便後にトイレットペーパーでお尻を拭くと、目には見えませんが、拭いた手に排泄物由来の微生物が多く付着します。このため、トイレ内の手指で触れる場所(ボタン、レバーなど)はすべて汚染されていると思ってください。トイレ内では口の周りを触らない、トイレ使用後は石けんと流水で30秒~1分以上かけて念入りに手を洗うことを徹底しましょう。また、手を洗ったあとでは、筆者は肘を使ってドアを開ける、蛇口のハンドルなどは利き手と逆の左手を使うというマイルールを設定しています。赤ちゃんのいる家庭では、オムツ交換台・授乳室などの汚染にも注意しましょう。
◆家庭でも手指を清潔に保つ
家庭でも、予防の原則は「原因ウイルスが口に入らないようにする」です。トイレが複数ある家庭では、胃腸炎感染者用のトイレを決めておきましょう。トイレ使用後の便器消毒については、塩素系消毒薬を用いる方法が知られていますが、現実的にはトイレに行く度、完璧に消毒するのは骨が折れます。このため筆者は、下痢・嘔吐をした便器には、日常的に使用している市販の便器用ジェル洗剤を便器内にかけて30分程度の換気時間を設けたあとフタをして洗浄し、便座・フタ・手すりなど直接手で触れる場所を市販のトイレクリーナーで簡単に拭くのみにしています(便や吐物が付着した場合には塩素系消毒薬で拭き消毒)。家族にはトイレ後の手洗いを徹底してもらいます。この手洗いが最も重要で、汚染されたトイレからウイルスを拡げないことがポイントです。手を拭くタオルも、共有しないようにします。
◆胃腸炎だけど調理しても良い?
仕事としての調理はアウトですが、家庭内で胃腸炎の方が料理を作らざるを得ない場合は、マスクを着用し、手をよく洗ったうえで調理用の使い捨て手袋を着用しましょう。直接触れて提供する生野菜などは避け、最終的に加熱して食べる料理がおすすめです。ちなみにノロウイルスの場合、感染者が使用した食器類は、洗浄前に熱湯や漂白剤で消毒することが勧められています。ただし、熱水式の食洗器があればそのまま洗っても構わないと思います。また、表面がツルツルした食器であれば、普通の洗剤でも良く洗い流すことで物理的にウイルスが除去されると考えられます。ただし、食器洗い用のスポンジとシンクは、使用後にキッチン用の漂白洗剤で消毒することをお勧めします。
◆簡易エチケット箱を活用!!
我が家では、寝室に簡易的なエチケット箱を設置しています(図1)。感染性胃腸炎が保育園や学校などで流行している時期には、エチケット箱を増設します。この箱はコストがほとんどかからず、片付けが安全かつ楽に行えます。カーペットや布団などが吐物で汚れることを防ぐことで、保護者が感染するリスクも減らすことができるでしょう(吐物の片付けは、家族が感染する大きな原因の一つです)。
◆ゴミ袋で嘔吐用簡易ポンチョ
小さなお子さんが胃腸炎になった場合にも大変なことがありますね。何度着替えさせても吐物で汚してしまい、着るものがなくなった経験はありませんか?また、具合が悪くぐずっているお子さんを抱っこしなければならず、抱っこしながら嘔吐。結局子どもも大人もゲロまみれ。ボロボロになりながら看病して子どもが回復する頃には大人が嘔吐。一家で胃腸炎を受け入れるという作戦(?)もありますが、私が行った工夫はゴミ袋を利用した簡易ポンチョづくりです。
図2のように、ゴミ袋に穴を空けて切れ込みを入れるだけで完成します。滑る素材のものは、抱っこする際に危険なので避けた方が良いでしょう。図3のように抱っこしながら、お互いの衣服をガードします。わが家では、まだ子どもが小さいころに、このポンチョが活躍しました。
◆おわりに
いかがだったでしょうか。感染性胃腸炎の対策について、なるべく他では見かけない内容を意識して書いてみました。他にも載せきれない事がたくさんありますが、ここまでにしたいと思います。感染症は、対策をいくら頑張ってもかかるときにはかかりますので、神経質になりすぎるのも考えものですが、ちょっとした工夫や配慮でリスクを減らすことができるのも事実です。日常生活でもバランスよく感染対策を行い、元気に過ごせるようにしましょう。笑う門には福来る、運気を上げて新年を迎えましょう。
※詳細は本紙P.11をご覧ください。
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