■「律令(りつりょう)」の始まり(2)
下野市教育委員会 文化財課
先月も「律令」(古代の法律)について記しましたが、いつの世でも人間が集団として行動する際には一定の規則や法令が決められ、法令遵守(ほうれいじゅんしゅ)(コンプライアンス)が必要となります。それを守れない者は集団から除外され、法による罰則を受けます。法は古代バビロニアの「ハンムラビ法典」、古代ローマの「十二表法」、東ローマ帝国の「ローマ法大全」、神聖ローマ帝国の「カール法典」、古代中国(魏)の「新律十八篇(しんりつじゅうはちへん)」など、様々な時代・地域でつくられました。
「律」
奈良時代に制定された刑法である「律」には、「衛禁(えごん)律」「賊盗(ぞくとう)律」「職制(しきせい)律」「闘訟(とうしょう)律」があります。
「衛禁律」は宮中の警護、関(三関(さんげん):不破(ふわ)・鈴鹿・愛発(あらち)、後に愛発から逢坂(おうさか)に代わる)の守備に関する内容です。
「賊盗律」は強盗(ごうとう)・謀叛(むほん)・反逆・殺人・呪詛(じゅそ)などに関する法律で、官人・庶民を問わない刑法です。
「職制律」は官人(役人)の服務規律違反を罰する内容で、正当な理由が無い欠勤、遅刻などの職務専念義務違反のほか、報告内容の間違いに気が付かない過失なども、様々な罪に問われました。これと同様に、現代の市職員などを含む地方公務員は、「地方公務員法」により様々な罰則規定が設けられ、正当な理由なく欠勤、遅刻・早退を繰り返すと減給・停職・免職、勤務態度不良・職務専念義務違反などは減給・戒告、職場内秩序びん乱、虚偽報告、秘密漏えいは免職・停職などに処せられます。
「令(りょう)」
行政法をはじめとした刑法以外の法律である「令」の内容は、「官位(かんい)令」が官位に相当する身分の者等の解釈、「職員令」が中央・地方の各役所の定員・職掌などの決まり、「神祇(じんぎ)令」が天神地祇(てんじんちぎ)(神や神社、神職の職務関連)に関する内容です。
第七の規定は「僧尼令(そうにりょう)」で、僧尼統制上の刑罰・規制を主とする内容です。都の七大寺や地方の寺院、諸国国分寺・国分尼寺で僧尼はどのようなことを行い、どうあるべきかが記されています。その中でも禁止事項として面白いのが、僧籍にある者が酒を飲み、肉や五辛(ごしん)(唐辛子のような辛い物やニンニクやニラのような匂いを発する食品)を食べたら30日の使役(重労働)に従事、酒を飲んで暴力を振るったならば即座に還俗(げんぞく)(僧籍を取り上げ庶民として納税の義務を負わせる)、さらに、音楽や賭博にのめり込んだら100日の重労働などが記されています。ただし、病気の際に薬として酒などを飲む場合には、許可をもらい期限を決めて飲むことが許されていました。また、僧は尼寺に、尼は僧寺に入ることを禁じており、僧房に女性、尼房に男性を1泊以上泊めた場合は10日間、5日以上泊めた場合は30日、10日以上ならば100日の重労働に従事する決まりでした。加えて、僧尼は「園宅財物(えんたくざいぶつ)」(土地・宅地などの不動産と動産の資産)を蓄えてはいけない、庶民を集め勝手に集会を開いてはいけないなどの決まりも定められていました。
第八「戸令(こりょう)」・第九「田令(でんりょう)」(この第八・九は租庸調などの納税に関する条項)、第十四「考課令(こうかりょう)」(官人の人事評価に関する規定)、第十六「宮衛令(くえいりょう)(都・宮中護衛・警備に関すること)、第十七「軍防令(ぐんぼうりょう)」(防人・鎮兵など国防に関すること)、第十九「衣服令(えぶくりょう)」(官人の服装、正装時の衣服の色や庶民の衣服に関すること)と続き、第二十「営繕令(ようぜんりょう)」では建物・橋梁・堤防・道路・船舶などの物品の造営・制作と修繕に係る取り決め、第二十一「公式令(くしきりょう)」では公文書の様式及び作成・施行上の諸規定や服務などが記されています。
参考文献:岩波書店 日本思想体系『律令』
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