■経済良ければ全てよし?
Wirtschaft gut, alles gut?
(ヴィアチャフト グートゥ アレス グートゥ)
2月に、日本経済が米ドル換算のGDPでドイツに遅れをとっているというニュースがありました。私はNHKアプリでそのニュースを読んだのですが、ドイツのニュースアプリにはそのニュースはありませんでした。
真逆に、取り上げられていたのは、ハーベック経済大臣が、2023年の景気後退を辛うじて回避した後の2024年のドイツ経済の予想成長率は「劇的に悪い」0.2%であると発表したことでした。同氏は、ドイツは「このままでは続けられない」と述べました。
なぜ外から見るドイツ経済は絶好調に見えるのに、内側から見ると正反対に見えるのでしょうか?なぜドイツ人は、自分たちが経済的にもそれ以外でもうまくいっていると感じないのでしょうか? 他に考慮すべき要因があるのでしょうか?
ドイツの保守的な政治家たちは、しばしば「Die Wirtschaft hat uns Wohlstand gebracht(ディー ヴィアチャフト ハット ウンス ヴォールシュタント ゲブラフト)(経済が高い生活水準をもたらした)」と口にしますが、社会的な生活水準と福祉を測定するのに、ドイツ当局には公式な方法があります。Der Nationale Wohlfahrtsindex(デア ナツィオナル ヴォールファーツインデックス)(NWI・国民福祉指数)です。
NWIはGDPとどう違うかというと、GDPは一国の経済パフォーマンスを測定しますが、たとえば、所得の分配(一部の人だけが所得の大部分を受け取り、その他の国民はごく一部しか受け取っていない、という状態になっていないかどうか)は考慮されていません。また、GDPは、経済生産によって引き起こされる環境破壊の結果的コストも、再生不可能な資源の消費や自然資本の減少(森林の伐採や土地利用によって、受粉を媒介する昆虫の多様性が激減する)も考慮していません。余暇や医療、平均余命、貧困との闘いの成功率、手頃な価格の住宅へのアクセス、手つかずの環境や自然など、人生の生きがいとクオリティ・オブ・ライフにつながる多くのものはGDPには現れません。
経済が好調だからといって、必ずしも人々が幸せであるとは限りません。それどころか、交通事故や自然災害の結果コストは、GDPにプラスの影響を与える傾向があります。NWIは、そういった批判を受けて開発された指標で、21の要素から人の生活水準や福祉を増進させるか減退させるか示します。その21の要素には、環境コスト(水、土、空気、騒音、災害)や不平等、消費量などのほか、家事やボランティアの価値、交通事故や犯罪、酒、タバコ、ドラッグなどのコストも含まれます。
ドイツのGDPとNWIの比較は、下にあるグラフのとおりです。これを見れば、経済成長が人の生活水準や福祉の成長と同義ではないことが明白です。ドイツ経済は時々落ち込んでいるものの全体的には上向きに見えますが、NWIは2000年以来、微増と微減を繰り返し、ほとんど横ばいです。これを見れば、ドイツのメディアが、ドイツが名目GDPで日本を抜いたというニュースをあまり意味のないものとしてとらえたのも無理はないかもしれません。もちろん、大金がなくても地域社会で生きがいのある生活を送れるようにする努力は常に行われてきました。最近はインターネットによって、新しい方法が加わりました。私が特に気に入っているのは、「Tauschring(タウシュリング)(物々交換リング)」というものです。この仕組みについては、来月号のコラムで紹介します!
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