■文化財を次世代につなぐ―。
日光社寺文化財保存会 技師長
原田 正彦(はらだまさひこ)さん
今年12月、「日光の社寺」が世界遺産に登録されてから25周年を迎えます。世界遺産に認められる条件の一つに、「模造や復元品ではなく本物でなければならない」とあります。世界遺産登録の背景には、日本古来の技術や材料を守り、保存する人たちがいます。今回は、「日光の社寺」の保存活動を手がける日光社寺文化財保存会(以下、保存会という)で技師長を務める原田正彦さんに話を伺いました。
◆当時の技術を守り抜く
明治元年(1868年)、明治維新の変革によって、幕府の保護を離れたあとの、日光二荒山神社・東照宮・輪王寺および諸堂の保存をする目的で、「保晃会(ほこうかい)」を立ち上げました。この体制が現在の保存会の由来ともなっています。保存技術には、彩さいしき色・建築漆・木工などがあります。さまざまな技術がある中で、私は設計監理を担当しています。設計監理とは、修復にあたる全体のスケジューリングをすることです。いわば現場監督のようなもので、緊急時や災害時には日程調整もしています。
◆平成の大修理
東日本最大の木造建築ともいわれる、日光山輪王寺の三仏堂の修理は、平成19年度から令和元年度までかかったことから「平成の大修理」と言われています。しかし、当初は塗装だけの修理で平成22年度には終了する予定でした。
およそ10年間修理期間を延ばした理由は、柱の根継ぎ(柱の一部分が腐食した際に、柱全体を入れ替えずに一部分だけ交換すること)作業の際に「虫食い」を発見したからです。これにより塗装修理から解体修理へと切り替わりました。
◆完全修復への道のり
文化財保存は、なるべく古材を生かしながら修復することを基本としています。そのため、ただ単に柱を一本取り替えるような単純作業ではないため、柱の修理は特に苦労しました。虫食いの正体は「オオナガシバンムシ」といって、柱の内部を繊維に沿って食べ進める性質があります。そのため、外からは、虫食いの部分が見えず、発見に時間がかかるやっかいな虫です。虫食いがあった柱は、古材を生かしながら、新しい木を継(つ)ぎ木するなどして修復にあたりました。
◆古きを守るために新しき技術を
そのほかにも、虫食いの進行具合などを調べるために、レントゲンや電磁波、超音波などのさまざまな手法を試してきました。それもこれも、すべては日光の社寺の受け継がれてきた技術・材料を守り抜くためです。この思いや技術を受け継ぐ人が増えてくれることを願っています。
■インタビューを終えて
インタビュー中、熱心に当時の修復への思いを語ってくれた原田さん。そこには、文化財と、修復に関わった人への敬意があるからこそだと感じました。
ものを継ぐということは、同時に人の思いも継ぐということ。そのような仕事をしている原田さんですが、現在は文化財修理の技師が全国で100人程度しかおらず、実際に必要とされる人数はその3倍だそうです。保存会について詳しくは、保存会ホームページを確認してください。
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