●確かに時代とともに価値観も変わりますよね。単に物を買うだけならネットショッピングの方が安くて便利な場面が多いです。
そうですよね。戦後、私たちは「もの」の豊かさを追い求め、資源を大量に消費して安いものを大量に生産する「量的成長」によって発展してきました。
しかし、現在の日本のように成熟期にある経済では、「物」よりも「人」、「経済主体のまち」よりも「人の暮らしや生活・文化が見えるまち」が求められていくんだろうと思います。家庭、職場以外に、まち自体がどこか居心地の良い「居場所」となるイメージです。
情報化社会を迎え、一人の人が行う取り組みがSNSなどで拡散され、社会的に影響を与えるようになりました。私のまちづくりの考え方に「一人の人で、一つの物で、一軒の店で、街は変わる」という言葉があります。文字どおり、魅力がなくにぎわいもないまちであったとしても、一つのきっかけで人が集まり、人がつながることでまちを変えることができると思うんですね。
むしろ、これからの時代は大型商業施設というよりは、小さいところからまちを変えていくことが地方都市で取り組める現実的な回答であるとすら思えます。まさに、中心市街地は「消費の舞台」というかつての役割を終えて、人々を引き寄せる新しい目的を持った「求心力がある場」の出現を模索している時期にあるんだろうと…。
●会議では、官民連携の重要性、特に民間事業の促進に関しても話題となっていたようですね。
まちづくりでは、地域のまとまりが一番重要になると思います。この話は「温泉街のまちづくり」と「個々の旅館の経営方針」に例えることがあります。
今、観光業界では、収益性を上げるために宿で受けられるサービスを充実させて単価を上げ、館内に顧客を囲い込む経営方針をとる施設が増えています。館内でお土産を買うこともでき、一歩も外に出る必要性のない施設はそれなりに多いのではないでしょうか。
局所的に見れば一施設の収益性を高めることにつながると思いますが、広い視点で考えると周りの飲食店やお土産屋などの収益悪化につながる一面もあります。ですので、こうした流れが過度に進んだ場合、周辺の店舗が空洞化し、結果として温泉街全体の魅力度低下につながる可能性があるという面も考慮する必要があります。
観光者の視点で考えれば、「せっかくの旅行で温泉街に泊まるなら、景色がきれいで風情や活気がある温泉街を歩いて楽しみたい」と思う人も多いと思います。少なくとも私はそうです。宿に着いたら温泉に入って、浴衣に着替えて宿を出て周囲を散策、ふらっと入った居酒屋でお酒を飲んで…。旅行の醍醐味(だいごみ)はその土地土地の生活や文化に触れることであって、旅先での人との出会いもそうした接点の一つなんですね。元気なまちは、人と人をつなげるメディアの役割を果たします。
●北山代表は草津温泉の開発にも携わっていらっしゃいましたね。
草津温泉に関しても、まちの中心地に位置していた駐車場を人が集まる居場所として開発することで、観光誘客を増やすことに加えて、地域の一体感を生むきっかけにもなりました。今では行政と民間事業者の皆さんがチームとなって温泉街全体の景観などを整え、まちの魅力度をあげる取り組みをしています。
那須塩原駅周辺の土地を有効に活用して街並みを整えていく上では、地域の一体感というのは間違いなく重要な源資になると思います。地域が面的にまとまらないと、一貫性のある開発や街並みを形成することはできませんから。
●今後の駅周辺まちづくりに関して思うことは――。
我々グランドデザイン会議メンバーは、知見を生かした方向性を構想することはできても、結局、外の人なんですね。大切なのは地域の皆さん、特に駅周辺にお住まいの皆さんが「どういうエリアにしていきたいか」ということに対してどれだけ熱量を持っているか、これに尽きると思います。
まちの重要な構成要素の一つである新庁舎についても検討が始まっていますが、新庁舎の公共空間も一つの居場所に位置付けられるでしょう。まちの中に佇(たたず)む市役所。その中の市民広場がどういう場所になるか、一人でも多くの方々に関心を持っていただくことが非常に重要なんだろうと思います。
一人の人で、一つの物で、一軒の店で、街は変わる。
▽北山氏が考える時代変遷と価値観の転換イメージ
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