■イカリファームが天皇杯を受賞!
本市野村町に広がる一面の小麦畑。この小麦畑に情熱をかける(株)イカリファームの代表・井狩篤士さんは、地元農家の3代目です。もともとは米栽培がメインの農家でしたが、10年前、パン屋さんから「地元産の小麦を使った給食パンを作りたい」という声を聞き、本格的にパン用小麦「ゆめちから」の栽培を始めました。
◇ゼロからの挑戦
一般的に、小麦粉は含有するタンパク質量で分類されており、パンや中華麺などには強力粉、クッキーや天ぷらなどには薄力粉が使われています。ゆめちからは育て方によって、タンパク質量が18%にもなる超・強力粉ができる品種です。
井狩さんはこれまで別の強力粉品種の栽培経験があったため、「需要もあるし、同じ強力粉品種だから、ゆめちからも作れるだろう」と考えていましたが、品種が違うと育て方が全く違ったそうです。しかも、県内でこの品種を栽培している農家は0軒。土地に適した育て方も分からず、また県での栽培実績がないため、交付金も受けられません。ここから、井狩さんの長い挑戦が始まりました。
◇ひとつひとつ壁を越えていく
井狩さんはまず、追肥方法の研究を始めました。種子を取り寄せ、少しずつ肥料を与える時期を変えるなど、試行錯誤の日々。気候の関係で1年に1回しか試せないため、研究区画を細かく区切って、試せるだけ試しました。そうして苦労してできあがったゆめちからを、北海道の製粉所まで運んで小麦粉に。しかし、ゆめちからで作ったパンは、ガチガチに硬かったそうです。タンパク質量が多過ぎたことが原因でしたが、このゆめちからに、香りのよい「ミナミノカオリ」など他の強力粉・薄力粉品種を独自にブレンドすることで、ちょうど良いタンパク質量の強力粉を製造することに成功しました。
◇新たな仕組みとブランド
井狩さんは、徐々に小麦畑の規模を拡大するとともに、自社に巨大な乾燥機や検査機を導入するなど、内製化も進めました。また、取り組みに賛同する市内外の農家仲間と情報を共有し、できあがったパン用小麦を1か所に集めて管理。製粉所で一緒に製粉することで、「品質が安定していない」といわれていた国産小麦を、安定供給できる環境を実現しました。みんなで作ったパン用小麦粉のブランド名は「近江金色(こんじき)」。現在、県内の学校給食や大手コンビニのパン、チルド中華麺などに使われています。
◇そして、小麦王国へ
これらの実績などが認められ、令和6年11月、第63回農林水産祭において、「農産・蚕糸(さんし)部門」で(株)イカリファームは滋賀県で初めて天皇杯を受賞しました。天皇杯は、過去1年間(令和5年7月から令和6年6月まで)の農林水産祭参加表彰行事(277件)で、農林水産大臣賞を受賞した463点の中から選定された賞です。
日本の小麦は約85%を輸入に頼っており、またパンに使われている小麦のうち、国産小麦の比率は約8%となっています(※)。このような状況の中、井狩さんは「もっと仲間を増やし、将来は農業を教える学校や、農業カフェを作りたい」と話してくれました。これからもわくわくする農業を、みんなに見せてくれそうです。
※出典/農林水産省「麦の生産をめぐる事情令和6年12月」19・20ページ
◆プロフィール
井狩篤士(あつし)
昭和53年生まれ、野村町在住
(株)イカリファーム代表取締役
大学生の時に中国へ留学、農業の重要性や日本の食糧の環境を見つめ直し、家業を継いだ。「わくわくする農業」をモットーに、合理化された会社経営を行う傍ら、親子を対象とした「収穫作業」や「みそ作り」などの体験教室も実施している。
問合せ:農業振興課
【電話】36-5576【FAX】46-5320
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