人権擁護委員 水上 明子(みずかみ あきこ)さん
頂き物の梅ヶ枝餅の残りを冷凍庫から出して焼いたら、香ばしくて甘くて、これが父の大好物でした。
父は網膜色素変性症で、若い頃から視ることに苦労をしていました。進行がゆっくりだったので完全に失明したのは晩年でしたが、もちろん運転免許を得ることはなく家族旅行など、ほとんどしたことがありません。でも、私の受験の年、家族を太宰府天満宮に連れて行ってくれたことがありました。熊本、福岡の路線バスや電車を乗り継いでの歩け歩け旅、疲れ果てて着いた参道での梅ヶ枝餅のおいしかったこと。以来、梅ヶ枝餅は我が家のソウルフードになりました。後年、父は白杖(はくじょう)を申請しましたが、車椅子生活になって、この白杖は使わないまま20年前に他界しました。
数年前、デパートに行ったとき、食品売り場で白杖を持った人を見かけました。買い物を終えて帰るところだったのでしょう。売り場の人がこう話しかけていました。
「出口までご案内しますが、スタッフが戻るまで少々お待ちください」
思わず、声をかけました。
「私がご案内しましょうか」
白杖の人は、ほとんどためらうことなく私の右肩に手を置き、
「お願いします」
瞬間のうれしさ。初めて出会った私に寄せられた無上の信頼です。
互いを紹介し合いながらデパートを出て、アーケード街を並んで歩きました。
「もう大丈夫です。ありがとう」
後ろ姿を見送りながら、父の姿にも重なってしばらくその場を離れることができませんでした。
人は年を重ねればできないことが増えていきます。私も70歳を超えて、身体のいろんなところに不安が生じるようになってきました。そんなとき、家の近くで手話講座が開かれることを知り、少しでも自分の力が残るうちにと、思い切って講座を受けることを決心しました。
「高齢者でも大丈夫でしょうか」
「どうぞどうぞ」
若い皆さんに交じっての夜の講座は続けられるか不安も大きいのですが、今のところ学ぶ喜びの方がまさっています。これからまた誰かとつながっていくきっかけづくりができればと願っています
問い合わせ先:人権啓発教育課啓発教育班
【電話】096-248-2399
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