平成28年の熊本地震で被災し一本柱になっても建物を支え、一躍注目を集めた飯田丸五階櫓の石垣がついに復旧完了へ。
7年半以上にわたる歩みを振り返るとともに、携わったスペシャリストたちの熱い思いをご紹介します。
◆飯田丸とは
飯田丸は南側の竹の丸、西側の行幸坂(みゆきざか)方面を望む高台に位置し、本丸の南西を防衛する重要な拠点でした。熊本地震以前に建っていた飯田丸五階櫓は、平成17年に復元したものです。櫓を支える石垣(高さ15m)と、南側に位置する要人櫓(ようにんやぐら)石垣(高さ6.5m)は、加藤清正の息子・忠広の時代である慶長16(1611)年以降、元和年間(1615~1624年)までに築かれたことがわかっています。
◆飯田丸の被災状況
4月14日の前震で飯田丸五階櫓石垣の南面の約80石が崩落、続く本震で南面と東面の約500石が崩落しました。角の石垣のみで建物を支えていたため「奇跡の一本石垣」と呼ばれました。さらに、要人櫓石垣は一部に膨らみや緩みが生じました。今回の復旧工事では、地震被害を受けた飯田丸五階櫓・要人櫓の石垣の解体・積み直しを行いました。
●平成28年6月~平成30年6月 倒壊防止・櫓本体解体作業
まずは緑色の鉄骨の構台を設置し櫓本体の倒壊防止を行いました。その後、櫓下に崩落した石材を無人重機を使って一石ずつ回収。さらに「一本石垣」の倒壊防止工事を行ったうえで櫓の解体に着手しました。瓦、壁土をはじめ多くの部材を再利用するため、柱や梁(はり)など一つずつ解体しながら回収する場合と、小屋組み全体を地上に降ろして安全に解体する場合を見極めながら丁寧に作業を進めました。
○ここがスゴイ!
・熊本城調査研究センター 文化財保護主事 佐伯 孝央(さえき たかお)
今回の復旧作業は、城郭や文化財石垣を持つ全国の自治体から応援に駆けつけてくれた多くの派遣職員と本市の職員が力を合わせることで実現しました。解体によって失われてしまう歴史の情報を一つ残らず記録した人、その情報を元に震災前の姿に戻そうと力を尽くした人。石垣とともに一人ひとりの思いも積み重なっています!
●平成30年11月~令和元年5月 五階櫓石垣の解体
解体前と同じ状態に戻すため、石垣は解体時に、一石ごとに番号をつけ、内部に敷き詰められたグリ石も人力で回収しました。もともと、石垣内部に加藤清正が築城した当初の石垣が埋まっていることはわかっていましたが、今回の解体調査では、その埋没した古い石垣が、およそ400年ぶりに姿を現しました。
○スペシャリストの声
・下高 大輔(しもたか だいすけ)さん
平成30~31年に彦根市文化財課から派遣
(現職:熊本博物館 学芸員)
今回の石垣解体は、全国的にも例が少ない櫓の土台となる石垣を丸ごと解体しなければならないというもので、これまで積み重ねられた多くの歴史的証拠を解体する大手術でした。これにより、普段見ることができない石垣の裏側の具体的な構築方法や、五階櫓の土台となる石垣の増設手順など多くのことがわかり、驚きの連続でした。
●令和4年10月~令和6年1月 石垣積み直し工事
石垣の解体から積み直しまで一貫して携わる職人たちの力を借りて、できる限り元通りの姿に積み直しました。崩落した石材の形と被災前の写真を照合し、一石ずつ慎重に元の位置に戻しています。また、地震対策として伝統的な石垣の積み直しに加え、南面・東面の石垣の内部に網目状のシート材を敷き詰めました。シート材と、石垣の外面に設置した円盤状の受圧板をつなぐことで、石垣全体の耐震性を高めています。
○スペシャリストの声
・阿部 泰之(あべ やすゆき)さん
令和2年度下半期~令和3年度上半期、令和4年度下半期、令和5年度下半期に福岡市埋蔵文化財課から派遣
今回の積み直しに使われた石は約1,800個におよびます。これだけの規模ですから、一石一石ナンバリングして緻密な資料を作っても「上の段になるとかみ合わない」ということも。そのたびに数段解体して再び積み直しました。最終的に高さ15mのうち、誤差はわずか数センチ。各分野のスペシャリストが結集したからこそ成し得た偉業です。
・藤本 匡哉(ふじもと まさや)さん
熊本城総合事務所 復旧整備課 主任技師
文化財ですから「できる限り元の姿に戻す」という命題と、「お客様の安全を守る」という必須条件をバランスよく融合させる必要がありました。最善策を多角的に検証した結果、従来のものから飯田丸仕様に改良した工法に決定。将来の災害に備えて最新の技術を取り入れたことが、今回の「令和の修理」の特徴です。
◆令和5年11月18日に熊本城復旧シンポジウムを開催しました。
7年の歳月をかけてついに復旧完了を迎えた飯田丸五階櫓の石垣。この石垣の復旧に携わった全国の自治体からの派遣職員を招き、各都市の調査事例から得られた知見が飯田丸五階櫓石垣の復旧にどのように役立ったのかを振り返りました。
熊本城の復旧は「熊本城復旧基本計画」に基づき進めています。詳しくは、市ホームページをご覧ください。
問い合わせ:熊本城調査研究センター
【電話】096-355-2327
<この記事についてアンケートにご協力ください。>