■専門医インタビュー 早期発見と地域との関わりが大切
認知症は「脳の病気」であり、誰もがかかる可能性があるもの。早期発見の必要性や周囲ができることなどについて、玉名病院医師の矢田部裕介(やたべゆうすけ)先生に話を聞きました。
□認知症の初期症状とは
認知症とは、一度成熟した知的機能が何らかの脳の障害によって持続的に低下し、日常生活に支障を来すようになった状態のことで、いろんな病気が原因となり引き起こされるものです。
認知症になると言葉が出にくくなったり、時間や場所が分かりにくくなったりする認知機能障害や、怒りっぽくなったり徘徊したりしてしまう精神症状が出てきます。初期症状には物忘れがよく見られます。加齢による物忘れは出来事の詳細は忘れるにしても出来事自体は覚えているものですが、認知症による物忘れは出来事そのものを忘れてしまう。日常生活に支障を来す病的な物忘れや、以前はなかったような精神症状がある場合など「心配だな」と思った時点で、積極的にかかりつけ医や地域包括支援センターに相談してください。
□他人事と思わずに正しい理解を
認知症は、誰でもなる可能性があるもので他人事と思わないことが重要です。正しい知識を身に付けておくことで自分だけでなく家族が発症したときも早期発見につながります。
確実に認知症を予防する方法は今のところまだ見つかっていませんが、認知症になる確率を下げる方法は知られています。運動習慣を付け、野菜果物を適切に摂取すること。そして社会とつながりを持ち、誰かと一緒に楽しいことをすることです。
□社会とのつながりを保つ大切さ
認知症を発症すると、本人や家族は人との関わりを避ける傾向にあります。認知症の人が社会との接点なく過ごした場合、一番懸念されるのが脳を使わないことによる衰えである廃用症候群(はいようしょうこうぐん)というもの。廃用症候群が起こると、見かけ上認知症が進行してしまいます。社会とのつながりがあることによって、本人の安心感や自己肯定感が保たれるので、認知症の人が社会参加を続けることはとても大切なことです。
□早期発見のメリットとは
早期発見、早期受診のメリットは3つあります。1つは、認知症を引き起こす病気の中には早期治療で治るものがあること。正常圧水頭症(せいじょうあつすいとうしょう)、慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ)、脳腫瘍(のうしゅよう)などです。治療可能な病態の可能性があるという点で早期受診をすることが大切です。
2つ目は、認知症の原因疾患で一番多いのがアルツハイマー型認知症ですが、この認知症には治療があります。治したり、進行を止めたりするものではありませんが、薬によって進行を遅らせるというものです。軽症の段階で治療を開始することによって症状が軽い時期を延ばすことができます。
3つ目は、早めに認知症と分かることによって、周囲による本人への接し方がより適切なものになるということです。認知症と分からずに、いろんな失敗を周囲が叱責したり指導したりすることによって、本人の自尊心が下がってしまいます。そうすると二次障害が精神症状として表れやすくなるのです。早めに診断を受けて、周囲の人が対応法を勉強したり環境を工夫したりし、認知症を念頭に置いた接し方をすることで二次障害を防ぐことが大切だと思います。
□認知症と分かると認知症に振り回されなくなる
認知症は、ほとんどの場合が治癒しない病気なので、病院では治療というよりもより良い生活のための助言をします。認知症と分かることで、環境を整えられる。二次障害を起こさないためにどう接するのがいいか、どういう生活リズムを本人に提供するのがいいのかなど、本人と周囲の人が認知症に振り回されずに家庭生活を送れる方法を一緒に考えていきます。
認知症の人の家族をはじめ周囲の人は、地域包括支援センターへの相談や、介護保険の申請、デイサービスの利用などを検討し、専門職の人に相談ができる環境づくりをしておくことが大切だと思います。それがひいては本人の生活の質の向上につながります。本人のニーズに沿って、いろんな方法を試してみることが重要です。
◆こんなことがあったら認知症のサインかもしれません
・言葉が出にくくなった
・注意力や判断力が低下した
・時間・人・場所が分かりにくくなった
・財布などを盗まれたと周囲を疑う
・ささいなことで怒りっぽくなった
・意欲がなくなり、関心が薄れ、趣味の活動をしなくなった
・出来事そのものを忘れてしまう
・同じことを何回も話したり聞いたりする
・複雑な話を理解できない
■本市の状況
本市の認知症高齢者数も今後増加していく見込みであり、令和5年度に介護保険の認定が下りた人のうち、認知症あるいは認知症の疑いがあると認められた人の割合は90・3%でした。
荒尾・玉名警察署管内で、一般市民からの通報などにより認知症の疑いがある高齢者を警察署員が保護した場合に、認知症高齢者の養護者の同意を得て提出される「認知症の疑いがある高齢者等連絡票」の届出では、令和元年からの過去5年間で291件の届出があっています。
認知症により行方不明となる高齢者も増加していることから、行方不明となる恐れがある高齢者の写真や特徴、よく行く場所の情報や連絡先をあらかじめ登録する「玉名市高齢者見守り情報登録事業」では、令和元年からの過去5年間で76件の申請があっています。
▽認知症高齢者の推移
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