■認知症サポーター養成講座
いつかは自分も、いずれはみんなも認知症になるかもしれない。自分たちがそうなったときに玉名が優しい町であったなら。
外で会うといつもニコニコ笑顔で言葉を交わしていた近所のおばあちゃんが、最近になって見かけなくなった――。防災無線で行方不明の高齢者について放送していて、よく聞いてみると知っている人のことだった――。このような経験はありませんか?「認知症」とは、普段の生活から遠いようで近い病。いつかは自分がかかるかもしれない。自分の家族がなるかもしれない。そんなとき大切なのは、認知症を「正しく理解」することです。認知症サポーター養成講座(以下、認サポ)は認知症との共生・対応について「正しく理解」するための学びの機会。小中学校や民間企業、本市職員、地域の人々など幅広い世代を対象に、さまざまな場所で開講しています。
認知症サポーターとは、認知症を正しく理解し、偏見を持たず、地域や職場で認知症の人や家族を温かい目で見守る「応援者」です。認サポを受講すると、誰でも認知症サポーターになることができます。認知症サポーターには「クリアファイル」やブレスレットの形をした「オレンジリング」が配布され、認知症サポーターの目印となっています。
認サポの講師になるのは地域の介護施設などで働くキャラバン・メイトと呼ばれる人々。キャラバン・メイトとは、認知症の人やその家族を応援するサポーターを養成する講師役です。キャラバン・メイトは、認サポ開催をきっかけに、住民からの相談窓口となり関係機関と連携することで、地域のリーダー役となることが期待されています。熊本県では、平成18年度から認知症サポーターの養成に取り組んでおり、認知症サポーター養成率が平成21年度から15年連続で日本一を達成。玉名市内では令和5年度に40回実施され、1111人が認知症サポーターとして誕生しました。
認知症への偏見などをなくし、声を掛け合い、誰もが安心して過ごせるまちづくりを目指して、今後も幅広い世代に対し講座を開催し、さらなる認知症サポーターの養成を進めます。
□自分に置き換えて考えてほしい
キャラバンメイトとなり10年目
社会福祉法人玉寿会さくら苑
デイサービスセンター立願の森
デイ管理者・生活相談員
深見誠一郎(ふかみせいいちろう)さん
(介護福祉士・認知症ケア専門士)
認知症サポーター養成講座で講師として活動する深見さん。講座を通して、受講者に伝えたいことや心掛けなどをお聞きしました。
風邪を引いた人に「あったかくせなんよ」「栄養のあるものを食べなっせ」と優しくするのに、なぜ同じ病気の[認知症]には冷たく厳しくなってしまうのでしょう。
私は12年ほど前に、玉名市で初の認知症対応型デイサービスの立ち上げに管理者として関わりましたが、当時の認知症の人に対する理解は今ほど進んでおらず、ご本人とそのご家族の悩みや置かれている状況を目の当たりにしたとき、悲しくなったし、この状況を変えていかなければと思いました。認知症の研修に行き、そこで出会った講師に感銘を受け、現在私自身が講師をするに至りました。誰か一人でも当時の私のような人が現れればいいと活動しています。知識だけでなく介護職ならではの実体験に基づいた話で、身近に感じてもらえるよう工夫。[認知症]という病気への理解を浸透させて、玉名市がもっと『人に優しい町』になるように願っています。
知識は継続しなければ風化するもの。講師としてできるだけ協力したいと思っています。ただ講座を受講するのではなく、自分だったらどうするか、どうしてほしいか『自分に置き換えて考えてみる』ことが大切です。
▼受講者の感想
▽子どもたちの家族に対する考え方を変えたい(大浜小学校)
大浜小4年担任
松下哲也(まつしたてつや)先生
以前赴任していた小学校で認サポを受講しました。受講中に子どもたちから出てきたのは「自分の祖父母が」「ひいおばあちゃんが」と家族のこと。身近な人を思い出しながら授業を受けているので、授業と生活が結び付く瞬間でした。感想では「大丈夫だよ」と安心させてあげられるような言葉掛けをしたいという子がいて、道徳や人権などの学びになったと感じました。自分の家族に置き換えて考えることのできる題材だからこそ、たくさんの感想が出てきたのではないかと思います。
▽元気がなかったおじいちゃんが笑顔に(大浜小学校)
大浜小4年
木村朱里(きむらあかり)さん
認サポの話は初めて聞く内容で少し難しかったです。登場人物のおばあちゃんがもし、自分のおばあちゃんだったらどういう風に接していたか考えました。認知症だと分かったら、対応の仕方を学んで優しくできるようになりたい。自分のおじいちゃんは病気ではないけれど、少し元気がないように感じていて、耳が遠いこともあり、自分の話すことを何度も聞き返されて少し冷たくしてしまいました。今回認サポで、強く接してはいけないと学んで、最近ではおじいちゃんに寄り添えるように。そうすると、おじいちゃんがにっこり笑ってくれるようになりました。
▽クラスのみんなが意識してより良い地域へ(玉南中学校)
玉南中3年学年主任 大山道弘(おおやまみちひろ)先生
坂西奎耶(さかにしふみや)生徒会副会長
吉川凰皐朗(よしかわこうたろう)生徒会長
賀耒咲帆(かくさきほ)生徒会書記
西村美命(にしむらみこと)生徒会副会長
大山先生:3年生の総合的な学習の時間で福祉について学ぶことに例年取り組んでいます。認知症について学び、身近な人との接し方を考える中で社会貢献することを目標に掲げていました。受講した子どもたちの感想の中で、自身の家族だけでなく、友人に対する接し方にまで、学びを広げてくれました。
吉川さん:自分の祖母が忘れっぽくなってきましたが、強く当たらず相手のペースに合わせて優しく対応することを意識するようになりました。
西村さん:認知症については本で読んだことがあり、少し知っていました。受講後は知っていたことの理解がさらに深まり、新しく知ったことも。自分の家族や周りの人に認知症の人が現れたとき、学んだ行動を意識して取り組みたいです。
坂西さん:家族が認知症になったときに否定せずに受け止めて優しく接したいです。
賀耒さん:受講後もクラスで認知症や高齢者への接し方について話題が出るようになりました。みんなが意識しながら生活するとより良い地域が作れるのではないかと思います。
・認サポでの学びを文化祭で劇として発表
「少しでも分かりやすく、他の学年に伝えたかった」とシナリオを考えたのは、副会長の西村さん。
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