高森町教育委員会では、にわかの調査事業を実施し、令和5年度に高森のにわか調査報告書を刊行しました。広報たかもりに連載し、にわかの調査を通じて、ここが面白い、特筆すべき点を町民のみなさんに紹介します!
■第4回 変わり続ける祭りのなかの変わらない想い
迫田 久美子
(熊本県博物館ネットワークセンター博物館活動嘱託員)
(元高森のにわか調査員)
高森風鎮祭ではにわかや造り物が脚光を浴びますが、今回は祭りの中で執り行われる高森阿蘇神社の二つの神事について紹介します。
旧暦7月18日(現8月18日。2022年からは祭り初日)の午前中に高森阿蘇神社で行なわれる神事は、風鎮め、すなわち台風などの悪しき風の被害から農作物を守り五穀豊穣を願って行なわれます。実は高森阿蘇神社では風鎮祭以外にも旧4月4日、二百二十日など、年に何度も風鎮めの祭りを行なっています。今年も全国で台風の突風により多くの被害がでていますが、それだけ風の害というのは恐れられ、それを鎮めたいという人びとの強い願いは、今も昔も変わりません。「山を引けば嵐じゃなくなる」というにわかの落としに、この祭りの根源があるように感じました。
風鎮祭におけるもうひとつの神事は、年番向上会の交代儀礼である節刀渡しです。その流れは、中央四つ角で、裃袴で笠を被った年番向上会が、神前で、衆人観衆立ち会いのもと、高張り提灯の下で、口上を述べながら節刀(短刀)を次の年番向上会に渡し、観客も一緒に手締めで締め、樽酒の鏡開きなどを経て、神事終了と同時ににわか舞台のお囃子が鳴り響く、というものです。節刀は天皇から勅使に下賜される刀に由来するという説もあるようですが、熊本県の特に県北地域では、年番に該当するものをセットウ、年番を交代する儀礼をセットウ渡しということが多いことから、この言葉をいつのころか取り入れ、節刀の字を宛てて実際に刀のやりとりをするようになったとも推測されます。そこには掛詞を落としにする、衣装小道具にこだわるといったにわかに通じるものを感じます。
また、節刀渡しを中央四ツ角で行なうようになったのは戦後からというのは報告書にもありますが、たくさんの人々が見守る中で行われる厳かな儀式の中にちりばめられた様々な演出の根底には、この風鎮祭が始まった当初から変わらぬ、観客を楽しませたい、喜ばせたいというおもてなしの心があるのではないかと感じたところです。
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